国内では新NISAの拡大などを契機に資産形成への関心が高まりを見せており、さらに、世界的に見ると資産市場における暗号資産の影響力は無視できない規模に成長しています。
2023年にビットゲットが実施した調査によると、米国、中国、日本、ドイツなどの主要国において、ミレニアル世代の46%が仮想通貨を保有していることが明らかになっています。また、Bank of Americaが2024年に発表したレポートでは、若年層の投資家が株式、債券、アート、暗号資産をほぼ同等の割合で保有することが一般的になっていることが示されています。
本イベントは、こうした暗号資産業界の動向を捉え、具体的なWeb3ビジネスモデルへの理解を深めるため、最前線で事業を展開する有識者の知見とアイデアを共有する場として開催され、非常に多くの方にご参加いただきました。
房安氏: 本日はモデレーターを務めさせていただきます、株式会社Ginco副社長の房安です。Gincoでは、日頃よりWeb3業界との連携を深めており、今回も業界の最前線に立つ登壇者の皆様をお招きし、本イベントを開催する運びとなりました。お越しいただきました皆様、誠にありがとうございます。では、まずはご登壇者の皆様から自己紹介をお願いします。
大島氏: 株式会社Zaif 代表取締役社長の大島です。Zaifは2016年に設立された取引所ですが、サービス自体は約10年前に立ち上げられ、国内で最も長い歴史を持つ暗号資産取引所です。現在、預かり資産は約1,000億円、ユーザー口座数は約40万件となっており、国内では中規模の取引所に位置づけられています。
房安氏: 昨年、経営体制が変更されたと伺いましたが、その経緯についてお話しいただけますか?
大島氏: はい。昨年11月にクシム社による買収が発表され、私が代表に就任しました。これを機に「暗号資産で資産形成ならZaif」というキャッチコピーを掲げ、取引所の方向性を再定義しました。証券業界でも手数料ビジネスに限界が見え始めており、ストック収益型モデルへの転換が進んでいます。Zaifも取引手数料に依存しない、長期的な資産形成を支援するサービスに注力しています。
房安氏: ありがとうございます。続いて、Fintertechの相原さん、自己紹介をお願いします。
相原氏: Fintertech株式会社代表取締役社長の相原です。Fintertechは2018年4月に設立され、現在で約6年半を迎えます。もともとは大和証券の子会社として設立されましたが、現在はクレディセゾンからも出資を受け、80対20の合弁会社として運営しています。大企業のリソースと金融ベンチャーの柔軟性を活かし、幅広い世代に向けた金融サービスの展開を目指しています。
社名「Fintertech」は「Finance(金融)」と「Entertainment(エンターテインメント)」を掛け合わせたもので、投資を単なる資産形成の手段にとどまらず、応援したい企業や人を支援する楽しさを提供する新しい金融サービスを提案しています。特に、従来の証券会社が対応できないニーズに応えるため、Web3を活用した金融サービスや、貸付型クラウドファンディング、クラウド型応援金サービスといった新たな領域に注力しています。
房安氏: まず、Zaifはどのような特徴を持つ取引所か。詳しく教えていただけますか?
大島氏: Zaifは、初心者の方でも利用しやすい「かんたん売買(販売所)」と、ユーザー同士が取引できる「板取引(取引所)」を提供しています。現在、24種類の暗号資産を取り扱い、すべての銘柄で現物取引が可能です。さらに、EthereumやSymbolのステーキング、そして「コイン積立」といったサービスも提供しています。
また、「Zaifカード」というサービスでは、利用金額の0.8%がビットコインとして還元されるため、日常の買い物を通じてビットコインを貯めることができます。私も愛用していますが、こうしたサービスを通じて、初心者の方が暗号資産を生活に取り入れやすくし、資産形成を包括的に支援することを目指しています。
房安氏: 資産形成と暗号資産を連動させた事業展開をされていると伺いましたが、Zaifでは他にどのような取り組みを計画していますか?
大島氏: 現在、Zaifでは「資産形成トークン(仮)」と呼ぶユーティリティトークンの発行を計画しています。このトークンを保有することで、ステーキングの利回り向上や積立手数料の割引などの特典を受けられる予定です。
さらに、Zaifで新たに上場する暗号資産のエアドロップを付与するなどの特典も検討しており、トークン保有者が暗号資産の数量を増やしつつ、業界の成長に参加できる仕組みを提供したいと考えています。
Zaifは「暗号資産による資産形成」をコンセプトに、長期的な利益を提供し、老後の資産形成を支援できる取引所を目指しています。
房安氏: サービスの開始はいつ頃を予定されていますか?
大島氏: 2025年下半期のリリースを目指して準備を進めておりますが、金融商品取引法に関する規制にも十分配慮し、慎重にプロジェクトを進行中です。
房安氏: 続いて、Fintertechでも新しい金融の形を目指す、とのお話がありました。具体的にどのようなサービスを展開していますか?
相原氏: ありがとうございます。現在リリースしているサービスに「デジタルアセットステーク(消費貸借)」と「デジタルアセット担保ローン」があります。
「デジタルアセットステーク(消費貸借)」に関しては、預金に近い形で資産を増やせるサービスを提供しています。これは通常の暗号資産取引所のステーキングサービスとは異なり、円建てでのリターンを実現することで独自の利便性を持たせています。
また「デジタルアセット担保ローン」は、暗号資産(ビットコインやイーサリアム)を担保に日本円のローンを提供するサービスです。これは、従来の証券担保ローンを暗号資産に応用したものです。暗号資産を長期で保有する方々に資産の流動性を提供しています。特に法人のお客様が、暗号資産を担保として融資を行うことで、資産を有効に活用していただいています。
房安氏: このような暗号資産を活用した金融サービスを展開した背景について教えていただけますか?
相原氏: 「デジタルアセットステーク(消費貸借)」については、一般的なステーキングで報酬が暗号資産で支払われるのに対し、日本円での受け取りを希望するニーズがあったため、それに応える形で設計しました。
また、「デジタルアセット担保ローン」は、DeFi(分散型金融)のレンディングサービスから着想を得ています。DeFiでは多くのユーザーが情報を収集し、自己管理型ウォレットを用いて資産運用に取り組んでいますが、これを誰もが利用できるわけではありません。そこで、DeFiの利便性を保ちながら、より多くの方にご利用いただけるサービスを目指して開発しました。
このサービスにより、暗号資産保有者が資産運用の選択肢を広げ、暗号資産を日本円で保有する場合と同様に多様な金融サービスを利用できるようになります。こうしたサービスを「暗号資産金融」と称し、今後も実用性の高いサービスの提供を目指しています。
なお、暗号資産の担保ローンを提供する際には、担保リスクや信用管理が重要です。参入が難しいこの分野において、私たちは大企業とベンチャーの中間的な立場から、必要なノウハウと基盤を生かし、勝ち筋を見出してプロジェクトを開始しました。
房安氏: Fintertechで「暗号資産金融」サービスを開発した際、どのようなユーザー層を想定していたのでしょうか?
相原氏: 当初のターゲットは、いわゆる「クリプト民」、2014年などの早い時期から暗号資産投資を始めた投資家や業界関係者を想定していました。しかし、実際にサービスを提供してみたところ、利用者には40代の経営者層や、2018年のバブル崩壊以降、積み立て投資を続けてきた方々が多いことが分かりました。彼らは主に知人の勧めをきっかけに暗号資産に触れ始め、気づけばその資産が大きく成長していたようです。
房安氏: 従来の暗号資産業界とは異なる資産を保有する層の方が参入し、ビットコインが1000万円を超える局面を迎えたわけですね。
相原氏: そうです。価格の上昇により、次の行動を考える方が増えています。アクティブな投資家に加えて、保守的な層も多く、暗号資産をどのように活用するか真剣に検討している方々が多い点が特徴です。
房安氏: 資産規模としては、どのくらいの方が利用されていますか?
相原氏: サービスは大口投資家向けに設計され、200万円から最大5億円までの貸し出しを行っています。
このサービスの利点として、利確を先送りできる点があり、特に長期保有を希望し現行の税制では売却を避けたい方が多く利用しています。資産を手放さずに、不動産や土地などへの分散投資が可能で、非常に高い関心をいただいています。
房安氏: ありがとうございます。ユーザー層の変化が話題になりましたが、Zaifのユーザーはいかがでしょうか?Zaifと言えば、取引ページにあるチャット機能が特徴ですよね。私もそのチャットで盛り上がった経験がありますが、現在の暗号資産のユーザー層についてうかがえることはありますか?
大島氏: そうですね。現在もチャット機能は活況で、そこでのユーザー層の変化を感じています。2017年や2018年には30代・40代が中心でしたが、最近は20代・30代の割合が増加しています。コロナ禍の2年間で特に若年層の参加が増えました。
以前は余裕資産で投資する層が多かったですが、最近では資産形成を視野に入れた若年層がビットコインをポートフォリオに組み込もうとしている様子が見られます。また、女性ユーザーは従来少なかったのですが、クリエイター支援サービス「Skeb(スケブコイン)」のキャンペーンの影響で、当社の女性ユーザー割合は全体の15%にまで上昇しています。
房安氏: 日本の資産形成では、新NISAを活用した株式や投資信託の購入が注目されていますが、5年、10年後の日本の資産形成も大きく変わろうとしています。その中で暗号資産はどのような役割を果たすとお考えでしょうか?
相原氏: 資産形成にはインフレ、金利、政策の影響が大きいです。これまでは日本円を保有していて価値の減少を感じることはありませんでしたが、インフレ下においては何もしていないと相対的に価値が減少してしまいます。また、今後金利が上昇傾向にあることで、証券会社や金融機関が新しい金融商品を提供しやすくなり、特に日本では政府の後押しもあり、資産運用への関心がさらに高まると見ています。
ビットコインが「デジタルゴールド」として認知され、時価総額が「銀」に匹敵するまで成長したことで、多くの投資家からオルタナティブ資産として見られるようになってきました。特に海外ではビットコインETFの導入が進み、投資家がビットコインをポートフォリオに組み込む動きも加速しています。
房安氏: ビットコインが銀に並ぶ資産としての地位を確立しつつあるのは、驚くべき変化ですね。
相原氏: 確かに、従来の価値観に大きな影響を与える出来事です。ビットコインは他の資産と異なる値動きを持ち、ポートフォリオに加えることでリスクとリターンのバランスが改善され、ファンドのパフォーマンスが向上するというデータも出ています。これもまた、金融業界全体に大きなインパクトを与えるでしょう。
房安氏: これまで暗号資産はユースケースが少ないと指摘されてきましたが、ビットコインの「Store of Value(価値保存の手段)」としての役割がその最大のユースケースになりつつあるのですね。今後、暗号資産のユースケースはどのように発展すると思われますか?
相原氏: 社内では5つの主要ユースケースを想定しています。1つ目は、ビットコインの「デジタルゴールド」としての役割です。これにより企業の資本市場での利用も進んでいます。
2つ目は「DeFi」や「DAO」の枠組みを通じたグローバルな金融基盤の構築です。
3つ目は「ステーブルコイン」がリテール決済の基盤として広がり、将来的にはキャッシュレス決済サービスやSWIFTのような既存の決済システムにブロックチェーンが導入される可能性です。
4つ目はデジタル証券分野でのセキュリティトークンの拡充で、最終的には上場株の取り扱いも期待されます。
5つ目はNFT技術の権利取引やデジタルIDとしての活用です。
これら5つのユースケースが相互に作用し、最終的には金融業界全体を変革すると考えています。
房安氏: ユースケースの拡大が現実味を帯びてきましたね。大島さんのご意見もお聞かせください。
大島氏: 先日の米国の大統領選でも暗号資産、特にビットコインの国家戦略としての保有が話題になりました。国家がビットコインを資産ポートフォリオに組み込む時代が近づいており、もし中央銀行の準備金にビットコインが加われば、国家間での競争も想定されます。
これにより、企業もビットコインを資本政策の一環として保有するケースが増えてくるでしょう。最近、企業がビットコインを大量に購入し、発表することで株価を押し上げる例も増えています。暗号資産が企業戦略の重要な要素として位置づけられつつあります。
房安氏: 米国では暗号資産が選挙の主要テーマにまでなっていますが、日本ではまだそこまでの盛り上がりはないように感じますね。
大島氏: そうですね。確かにそうですが、日本でも自民党のWeb3推進本部が暗号資産を重要な課題として取り上げていますし、衆議院選挙でも暗号資産をテーマに掲げる候補者が増えています。徐々に関心は広がりつつあると感じます。
房安氏: 海外ではしばしば暗号資産がポジティブに捉えられる一方、日本では暗号資産に対するネガティブな印象が根強く残っていますが、その改善には何が必要でしょうか?
大島氏: 日本では暗号資産に対して依然「怖い」という印象が残っています。グローバルな認識との違いを埋めるため、業界全体での取り組みが必要です。最近、著名タレントの起用によるCMなどもイメージ改善の一環ですが、まだ課題は多くあります。
房安氏: 最後に、国内におけるビットコイン普及に向けた解決策や、自社での取り組みについてお聞かせいただけますか。大島さんからお願いいたします。
大島氏: これまで株式や債券、不動産などに関心を持ち、暗号資産にはあまり関心を示さなかった層、また、新NISAを利用し始めたものの暗号資産には興味を持ってこなかった層へのアプローチが重要になると考えています。そのため、既存の金融事業者との連携が鍵となります。
現時点では、暗号資産は一般投資家にとって、法規制や運営体制に課題が残り、完全に成熟した投資対象とは言えません。しかし、今年9月に暗号資産が従来の資金決済法から金融商品取引法に移行する動きが進み、業界全体の信頼性向上や税制改正が期待されています。これにより、暗号資産は従来の金融商品と同等の扱いを受ける方向に進んでいます。
房安氏: 新NISA制度の普及により、多くの方々の投資リテラシーが向上していますが、次に来る新たな波に注目するタイミングですね。特に若い世代は、他の世代と比較して暗号資産に対するネガティブなイメージが少なく、その分、潜在的な可能性を秘めているでしょうね。
大島氏: まさにその通りです。Zaifとしても、金融商品・暗号資産自体をリスクとして考えてはいない、ポジティブな印象を持つ層に焦点を当ててサービスを提供していく予定です。
房安氏: ありがとうございます。それでは、相原さんもお願いいたします。
相原氏: 国内で暗号資産を普及させるためには、金融規制に適切に対応しつつ、実際にニーズがあり、使われるサービスを提供することが重要だと考えています。投資全般に言えることですが、事業者目線ではなく、顧客目線で本当に必要とされるものを提供することが求められます。
Fintertechは、より多くの方々に投資の魅力を伝え、参入可能性を広げたいと考えている会社です。暗号資産やWeb3はそのためのツールとして活用していきたいと考えています。それに向けて社内では、「ツールの種類」や「ユースケース」ごとに分け、マトリックス図で事業展開を整理しています。
例えば、縦軸にはセキュリティトークン、暗号資産、DAO、NFT、ステーブルコインなどがあり、それぞれに金商法や資金決済法などの関連法規があります。横軸のユースケースには、プライマリー、アセットマネジメント、カストディ、セカンダリーを並べます。このマトリックス図を用いながら、自社の得意なケイパビリティを活かし、他の事業者と連携して新たなユースケース創出を目指していきます。
房安氏: 金融と暗号資産の融合による新たな価値創造ですね。本日は、大島さん、相原さん、貴重なお話をありがとうございました。