高速なトランザクション処理と低コストを両立させ、ブロックチェーン市場で確固たる地位を築くSolana。そのエコシステムの広がりは、DeFi、決済、物理インフラ(DePIN)など多岐にわたりますが、その技術的優位性や全体像を構造的に理解するのは容易ではありません。
本レポートは、特定のプロトコルを推奨するものではなく、Gincoが培ってきた実践知に基づき、Solanaを中立的な視点から体系的に解説するものです。Web3領域における事業開発やリサーチに取り組む皆様にとって、客観的な情報源となることを目的としています。
レポートは以下の2部構成です。
Solanaは、元Qualcommのエンジニアであるアナトリー・ヤコヴェンコ(Anatoly Yakovenko)が、グレッグ・フィッツジェラルド(Greg Fitzgerald)ら主要な貢献者たちと共に、「高性能なブロックチェーンプラットフォームを構築する」という構想のもとに設立されました。Solanaは2020年3月に正式ローンチされ、その高速なトランザクション処理速度によって、他の多くの既存ブロックチェーンネットワークを上回り、急速に注目を集めました。
Solanaのアーキテクチャの基本理念はシングルレイヤー設計(単層構造)にあり、多層構造にありがちな複雑性や非効率性を排除している点に特徴があります。このシンプルなアプローチにより、高スループット(処理能力)と低レイテンシ(遅延)を実現し、さまざまな分散型アプリケーション(dApps)を効果的に支えることが可能になっています。
Solanaは現在、Ethereum(イーサリアム)、BNB Chain、Avalanche(アバランチ)、Polygon(ポリゴン)などを競合とする、非常に競争の激しいブロックチェーン市場において主要なプロトコルの一つとして位置付けられています。先行者優位と広大なエコシステムを持つEthereumは依然として最大の競合ですが、その高額な手数料や低速な処理速度が、Solanaにとっての差別化要因となっています。
Solanaは、開発を簡素化する統合型ブロックチェーンモデルと、速度とコスト効率の高さに特化した設計によって、これらの競合との差別化を図っており、市場シェアを巡る競争の中で有力な候補として存在感を示しています。
Solanaは2024年に顕著な成長を見せ、主要なブロックチェーンエコシステムとしての地位を確立しました。2024年末時点で、月間アクティブアドレス数は1億を超え、Ethereumなど他のネットワークを大きく上回りました。SolanaのTVL(Total Value Locked、預かり資産総額)も過去最高を記録し、Jito や Jupiter Exchange などの革新的なDeFiプロジェクトによって70億ドルを超える規模に達しました。さらに、日次の分散型取引所(DEX)の取引量も時にEthereumに匹敵するなど、ユーザーの高い関与度と流動性の豊富さを示しています。
Solanaは、DeFi、NFT、ゲーム、エンタープライズ用途など、そのユースケースが多岐にわたる点も特徴です。例えば、USDCの決済におけるVisaとの提携や、分散型インフラを提供するRender Networkとの連携などが、その汎用性を示しています。DeFi領域では、Jupiter や Orca といったプロジェクトがスムーズな取引体験を提供しており、Solana Pay や Solana Mobile Stack によって、決済やモバイルdApp向けのユーザーフレンドリーな統合も実現しています。
また、ハッカソン や年次イベントの Breakpointカンファレンス など、コミュニティ主導の取り組みも活発で、開発者の参加とイノベーションを促進しています。さらに、Franklin TempletonやSociété Généraleといった機関投資家からの関心や戦略的な資金調達も、Solanaエコシステムの成長を後押ししています。これらの動きとあわせて、低い手数料と高い処理能力を持つSolanaは、Ethereumに対する有力な競合の一つとして、またWeb3領域における重要なプレイヤーとして、認識されています。
広く知られているように、分散システムにおける最も困難な課題の一つは時間の合意です。 Solanaの中核的な技術の一つである Proof of History(PoH) は、この分散型ネットワークにおける時間同期の問題を解決するために設計された仕組みです。
従来のブロックチェーンでは、すべてのノードがイベントの順序に合意する必要があり、そのためにはタイムスタンプの確認のためにノード間の通信が発生します。
これにより、ネットワークの遅延やレイテンシ(応答の遅さ)が発生してしまいます。
PoHは、Solanaの創設者である アナトリー・ヤコヴェンコ(Anatoly Yakovenko) によって開発されたもので、暗号技術に基づく「分散型の時計」として機能する点に大きな特徴があります。トランザクションが処理される前にタイムスタンプを付与することで、ノード間でリアルタイムに順序を合意する必要をなくし、大幅な遅延の削減を可能にしています。
この仕組みは、Verifiable Delay Function(VDF:検証可能な遅延関数) を活用し、あるイベントが発生したことだけでなく、それが時間軸のどこに位置するかも証明できるハッシュ値を生成します。
このVDFを用いて連続的なイベントのハッシュ値を記録していくことで、PoHは暗号的な証明の連鎖(proof chain)を構築します。これにより、バリデーター(検証者)たちはリアルタイムで通信をせずとも、イベントの順序に合意することが可能になります。
他のブロックチェーン、たとえば Ethereum のようにLayer 2(L2) ソリューションに依存してスケーラビリティを実現しているプラットフォームとは異なり、Solanaは統合型のアプローチを採用しています。
Solanaでは、すべてのトランザクション処理を単一のレイヤー上で完結させる、シンプルなアーキテクチャを採用しています。この統合型アーキテクチャは、マルチレイヤー型システムに内在する複雑性やリスクを回避しつつ、高い処理能力(スループット)と効率性を維持することを目的としています。
Solanaのアーキテクチャには、本レポートの後編で詳述する8つの主要な技術が組み込まれており、その中にはProof of History(PoH)のほか、Sealevel(並列トランザクション実行エンジン) や Gulf Stream(トランザクション転送メカニズム) などが含まれています。これらはすべて基盤となるプロトコルに統合されています。
Solanaのノードは、トランザクションを並列で処理する設計になっており、これはEthereumのEthereum Virtual Machine(EVM)における直列処理とは対照的です。この並列処理アーキテクチャにより、Solanaは1秒あたりのトランザクション処理数(TPS)を大幅に向上させています。
開発者向けには、SolanaはSolana Program Library(SPL) や Anchor Framework など、スマートコントラクト開発を効率化するためのさまざまなツールやフレームワークを提供しています。これらのツールにより、分散型アプリケーション(dApps)の開発における複雑さが軽減されるとともに、高いパフォーマンス基準も維持されます。Solanaでのスマートコントラクト開発には、Rust や C といった低レベルの制御が可能なプログラミング言語が使用されており、メモリやパフォーマンスの最適化を重視する開発者にとって魅力的な環境となっています。
また、ユーザー側の視点から見ると、Solanaは1秒あたり65,000件を超える高速なトランザクション処理と非常に低い手数料を実現しており、ユーザーフレンドリーなブロックチェーンプラットフォームの一つとなっています。Solanaのランタイム(実行環境)は、Sealevelというエンジンによって多数のスマートコントラクトを並列で同時に処理できるよう設計されており、複数の状態遷移を効率的に管理することを可能にしています。
Solanaエコシステムの成長は、プロジェクト、財団、企業といった多様な組織によって支えられています。これらの組織は、Solanaブロックチェーンの開発・運営・普及において重要な役割を担い、DeFi、NFT、インフラ、開発者向けツールといった各分野で活動しています。本章では、その中から主要な組織を紹介します。
Solana Foundation は、Solanaブロックチェーンの成長と開発を支援する非営利団体です。
そのミッションは、分散型でスケーラブルなネットワークを構築し、オープンな金融システムを実現することです。
本財団は、Solana上で構築されるプロジェクトに対して、資金提供、助成金、リソースの提供を行っています。また、ガバナンスやプロトコルのアップデートにも中核的な役割を担っています。
Solana Labsは、Solanaプロトコルの中核技術の開発を担う企業で、創設者のアナトリー・ヤコヴェンコ(Anatoly Yakovenko)らによって設立されました。
Solanaブロックチェーンのコアプロトコルの構築・保守を担当しており、財団がエコシステムの成長を支える一方で、技術的な進化とアップグレードの推進役を担っています。
Superteam は、クリエイター、開発者、起業家から成るコミュニティで、特に新興市場におけるSolanaエコシステムの拡大を目指して活動しています。
主な役割として、dAppsやDeFiプラットフォームなどを開発するビルダーに対し、助成金、リソース、メンタリングを提供し、プロジェクトの加速を支援しています。
Superteamの使命は、地域の開発者やスタートアップに対して資金・支援・教育機会を提供し、アクセスの難しい地域でもブロックチェーン技術によるイノベーションを可能にすることです。
Solanaの高速かつ低コストなブロックチェーン基盤は、多様な分野で革新的なユースケースの創出を可能にしています。その高い柔軟性とパフォーマンスは、DeFi(分散型金融)や決済といった金融領域に留まらず、物理インフラネットワーク(DePIN)やゲーム、NFTといった新たな領域にも大きな影響を与えています。
本章では、Solanaが実際にどのように活用されているかを示すため、これらの分野における主要な活用事例を紹介します。
Solanaのスケーラビリティは、物理的なインフラへの貢献をトークンで管理・分配するDePINプロジェクトにとって、理想的な基盤となっています。
これらの機能を通じて、PYUSDはeコマースをはじめとする幅広いシーンでの実用的な決済手段となるだけでなく、従来の金融サービスと暗号資産エコシステムを繋ぐ役割を担っています。
Solanaの高速性と手数料の安さは、特に高いパフォーマンスが求められるDeFi領域において、効率的なトレーディングや流動性の統合を実現するための大きな利点となります。
ここまで、Solanaの歴史的背景、市場における立ち位置、エコシステムを支える主要組織、そしてDeFiや決済、DePINといった具体的な活用事例について解説してきました。これにより、SolanaがWeb3の世界でどのような役割を果たし、どのような可能性を秘めているか、その全体像をご理解いただけたかと思います。
しかし、その高速・低コストといったパフォーマンスは、具体的にどのような技術によって支えられているのでしょうか。前編ではSolanaの全体像とその特徴に焦点を当てましたが、後編ではその核心である、パフォーマンスを支える技術的背景を解き明かしていきます。
後編では、Solanaのパフォーマンスを支える「Proof of History」をはじめとする8つのコア技術を一つひとつ解説し、開発者が利用できるツールキットや標準規格に至るまで、その技術的な側面を深掘りします。