
2026年6月1日、金融庁は「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」と呼ばれる新しい登録業種の制度を施行しました。これまで暗号資産取引に関わる事業を行うには原則として暗号資産交換業の登録が必要でしたが、今回の制度では交換業の登録までは取得せず、暗号資産・ステーブルコインの売買・交換の「媒介」のみを行う事業者を対象とした、より軽量な登録の枠組みが整えられています。本記事では、この制度の内容と趣旨、実務上の最大の関心事である「どこからが媒介に当たるのか」という線引き、企業が押さえるべき実務論点、そして並行して進む暗号資産の金商法移行との関係までを、一次情報をもとに整理します。
電子決済手段・暗号資産サービス仲介業とは、暗号資産交換業者または電子決済手段等取引業者(いわゆるステーブルコインの取扱業者)から委託を受け、その業者のために、暗号資産または電子決済手段の売買・交換の「媒介」のみを業として行う事業を指します。媒介とは、当事者の間に立って取引の成立に向けて働きかける行為を意味し、自らが取引の当事者になるわけではありません。
ポイントは、これまで一体として捉えられてきた暗号資産関連業務のうち、「媒介」という機能だけを切り出して、独立した登録業種として位置づけた点にあります。利用者から資産を預かったり、自ら売買の相手方になったりはせず、あくまで取引への導線を提供する事業者を想定した制度です。ひとつの登録のなかに「暗号資産仲介行為」と「電子決済手段仲介行為(ステーブルコインの媒介)」という二つの業務種別があり、扱う対象に応じて、暗号資産交換業者または電子決済手段等取引業者に所属する形をとります。
この制度は、2025年6月6日に成立し、同月13日に公布された改正資金決済法に基づいて新設されました。改正法は公布から1年以内の政令で定める日に施行するとされていましたが、2026年5月に関連する政令・内閣府令が公布され、施行日が6月1日に確定しました。同日付で、登録申請に必要な様式や概要書も金融庁の公式サイトで公開されています。
新制度の趣旨は、媒介のみを行う事業者について、その業務の内容・特性に応じた過不足のない規制を整備し、イノベーションの促進と利用者保護を両立させる点にあると説明されています。
背景には、暗号資産交換業の登録が、媒介だけを行いたい事業者にとっては相応に重い参入要件であったという事情があります。交換業者には、利用者資産の分別管理やシステムの安全管理に加え、犯罪収益移転防止法上の取引時確認義務など、取引の当事者・受託者として広範な義務が課されます。一方で、自社アプリやウォレット、ゲームなどのサービス上で、利用者を交換業者の取引へとつなぐ「導線」だけを提供したい事業者にとっては、その全てを満たすことが事業の実態に照らして過大になりがちでした。
そこで、媒介という機能に限定した、より軽量な登録の枠組みを設けることで、こうした事業者が暗号資産交換業の登録を自ら取得しなくても取引機能を提供できる環境が整えられた、というのが制度の位置づけです。Web3サービスやウォレットアプリ、事業会社が、自社の利用者基盤の上に暗号資産・ステーブルコインの取引導線を組み込みやすくなる効果が期待されています。
新制度の規制の骨格は、株式や債券を扱う金融商品仲介業の建付けと基本的に共通しています。専業の交換業者とは異なる、媒介者向けの設計になっている点を押さえると理解しやすくなります。
下図は、利用者・仲介業者・所属業者の三者関係を示したものです。仲介業者は媒介(取引への導線提供)のみを担い、利用者の資産は預かりません。資産の預託・口座管理・約定処理は所属業者の側に残り、利用者保護の第一義的責任も所属業者が負います。

図1:仲介業の関係構造。媒介は仲介業者が担い、資産の預託と賠償責任は所属業者の側に残る。
参入形式は登録制です。内閣総理大臣の登録を受けることで、暗号資産交換業や電子決済手段等取引業の登録がなくても、媒介業務を行うことができます。法人だけでなく個人も登録でき、登録できる法人の形態にも制限はありません。財務要件(一定の資本金などの財産的基礎)は課されておらず、犯罪収益移転防止法上の取引時確認義務の対象にもなっていません。
この制度の特徴のひとつが「所属制」です。仲介業者は、暗号資産交換業者または電子決済手段等取引業者から委託を受け、その業者に所属する形で業務を行います。所属先は複数であっても差し支えなく、たとえば複数の交換業者と提携して、自社アプリ上で多様な銘柄を扱うといった設計も想定されています。
利用者保護の中核を成すのが、利用者財産の預託禁止です。仲介業者は、名目を問わず、業務に関して利用者の財産を預かることが禁じられています。資産を預かる機能は交換業者・電子決済手段等取引業者の側に残し、仲介業者はあくまで媒介に徹するという役割分担が、制度上明確にされています。
加えて、仲介業者の媒介行為によって利用者に損害が生じた場合、原則として所属先の業者が賠償責任を負う仕組みになっています。ただし、所属業者が仲介業者への委託について相当の注意をし、損害の発生防止に努めていた場合は、この限りではありません。利用者から見れば、媒介を担うのが新規参入の事業者であっても、背後の所属業者が一定の責任を引き受ける構造になっているわけです。制度の事務ガイドラインも、利用者保護や業務の適正な遂行を確保する責任は「第一義的には所属業者が果たす」という原則を掲げています。
実務上、最も関心を集めているのが「どのような行為が媒介に該当するのか」という線引きです。媒介に当たれば登録が必要となり、当たらなければこの制度の枠外で事業を行えるため、自社サービスがどちらに位置づけられるかは事業設計を大きく左右します。
媒介に当たるかどうかは、個別の事例ごとに実態に即して実質的に判断されるとされており、明確な数値基準のようなものはありません。ただし、暗号資産交換業者向けの事務ガイドラインなどで示されてきた考え方が判断の手がかりになります。大まかに整理すると、次のように対比できます。
「媒介に至らない」と考え得る行為の典型は、勧誘を伴わない情報提供や紹介です。具体的には、商品案内のチラシやパンフレットの単なる配布、比較サイト等で交換業者から提供されたコンテンツをそのまま掲載する行為、勧誘をせずに単に顧客を交換業者に紹介する行為などが挙げられます。交換業者のサイトへ単にリンクを張り、契約締結に向けた交渉や手続きは交換業者と顧客の間で行われ、自社は関与しない、というケースもここに含まれます。
これに対して「媒介に該当し得る」のは、契約締結に向けて踏み込む行為です。契約締結の勧誘やそれを目的とした商品説明、契約条件の交渉、特定の人に向けた誘引行為、配布資料の記載内容まで踏み込んだ説明、提供されたコンテンツを加工して掲載したり、自社が推奨する商品を上位に表示するアルゴリズムを設けたり、自社独自の見解として商品を推奨・説明したりする行為などが、これに当たり得るとされています。
この判断の流れを図にすると、次のようになります。

図2:媒介該当性の判断フロー。「契約締結に向けた誘引行為」の有無が第一の分かれ目になる。
この線引きで実務上とりわけ重要なのが、施行にあわせて整備されたガイドラインと、それに関する金融庁のパブリックコメント回答が示した考え方です。事業者が自社サービスの顧客を交換業者に送客する場合であっても、取引の相手方が交換業者であることや、取引に関する説明が交換業者によって提供されることがあらかじめ明示されており、かつ事業者が独自に勧誘・推奨や条件交渉などの「契約締結に向けた誘引行為」を行わない限りにおいては、媒介に至らない行為と整理できる、という考え方です。
さらに踏み込んで注目されるのが、利用者が自社アプリの画面上で操作を行い、交換業者のサイトに画面遷移することなく、その画面上で売買の注文を入力し交換業者との取引が完了するケースについても、誘引行為と評価されない限りは媒介に該当しないといえる場合がある、と金融庁が回答している点です。これは、ゲームアプリやノンカストディアルウォレット(利用者自身が署名鍵を管理し、事業者が資産を預からないタイプのウォレット)の画面上で交換業者の取引機会を提供するようなケースにおいて、シームレスなUI/UXを設計する余地を示すものとして、実務上大きな意味を持ちます。
一方で、線引きはあくまで「誘引行為に当たらない限り」という条件付きであり、画面表示を含めた一連の行為が誘引に該当するかは慎重な個別判断が求められます。自社サービスのUI/UXが、単なる情報提供や取引機会の提供にとどまるのか、契約締結への働きかけにまで踏み込んでいるのかが、判断の分かれ目になります。この線引きは制度の運用が始まったばかりで、業界として共通の指針づくりを進め目線を合わせていこうという動きも出ています。ウォレットの分類や署名鍵の管理形態が事業設計に与える影響については、ノンカストディアルウォレットを解説した記事もあわせて参照ください。
制度の活用として、いくつかのビジネスモデルが想定されています。
ひとつは、事業会社が自社アプリを通じて暗号資産取引サービスを提供するモデルです。多くの利用者を抱えるアプリ事業者が、複数の暗号資産交換業者と提携して仲介業の登録を取得し、自社アプリ上で取引への導線をシームレスに設けるといった形です。もうひとつは、グループ会社間の連携です。たとえば証券会社が、グループ内の交換業者を所属先として、既存顧客に暗号資産・ステーブルコインの取引サービスを案内するケースが挙げられます。いずれも、仲介業者が単独でライセンスを取得するというより、所属先となる交換業者との共同事業としてサービス全体を設計するケースが多くなると見込まれています。
こうした活用を検討する企業が押さえておくべき論点は、二つに集約できます。
ひとつは、自社サービスが「媒介」に該当するかを、UI/UXの設計レベルで見極めることです。前章で見たとおり、送客にとどめるのか、取引機能まで組み込むのか、勧誘・推奨を行うのかによって、登録の要否と求められる態勢の重さが連動して変わります。事業モデルの設計と規制の当てはめが不可分である点が、この制度の難所です。
もうひとつは、求められる態勢の「実際の重さ」を見極めることです。新制度は参入ハードルを下げる趣旨で設けられたものの、ガイドライン案の段階では、内部監査・情報管理・システムリスク管理・帳簿の長期保存といった態勢整備の要求が暗号資産交換業に近い水準に見えるとの懸念が、複数の事業者から寄せられました。少人数での参入を想定するスタートアップにとって、登録のハードルが事実上高くなりかねないという指摘です。これに対し金融庁は、求められる態勢は各社のビジネスモデルを踏まえて個別事例ごとに実質的に判断されるとの考え方を繰り返し示し、システムリスク管理などの着眼点について「全てを網羅的に対応することまでは求めない場合がある」ことを明確化しました。利用者情報の管理や帳簿作成、不公正取引の防止、苦情処理といった態勢も、所属業者との連携・委託で対応できる旨が示されています。勧誘を伴わない送客中心のモデルか、取引機能を深く組み込んだモデルかによって、現実に必要な態勢は大きく変わります。自社のモデルに照らしてどこまでの態勢が要るかを早期に見積もり、所属業者と目線を合わせておくことが、参入判断の鍵になります。
なお、すでに暗号資産交換業の登録を持つ事業者が仲介業へ移行するケースでは、仲介業の登録審査が完了した時点で交換業の登録が外れる扱いになるため、サービスの空白や顧客の混乱を避けるよう、当局とあらかじめ移行スケジュールを調整しておく必要がある点にも留意が必要です。
最後に、足元の制度と中期的な見通しを区別して捉えるために、別の動きにも触れておきます。
今回施行された仲介業の制度とは別に、暗号資産そのものを資金決済法から金融商品取引法(金商法)の規制へ移行させる検討が並行して進んでいます。金融審議会の「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」は2025年12月に報告書を公表し、現在は決済手段としての性質に着目して資金決済法で規制されている暗号資産を、投資商品として金商法の規制対象に位置づける方向性を示しました。これを受けて、2026年4月には金商法・資金決済法の改正法案が国会に提出されています。
この移行が実現すると、暗号資産取引に関わる仲介業についても、将来的には金商法上の金融商品仲介業の対象へと組み込まれる可能性が指摘されています。今回の電子決済手段・暗号資産サービス仲介業が、所属制を採るなど金融商品仲介業と建付けを共通にしているのは、こうした将来の接続を視野に入れた設計とも読めます。
ただし、これらはあくまで「報告書の提言」と「提出された改正法案」の段階であり、施行済みの今回の制度とは時間軸が異なります。足元で確定したのは仲介業の枠組みであり、暗号資産の金商法移行は今後の立法プロセスを経て具体化していく段階にある、という区別を持っておくことが重要になります。なお、改正資金決済法には施行後3年を目途に制度を見直す規定も置かれており、仲介業の枠組み自体も、運用状況を踏まえて調整されていく可能性があります。
電子決済手段・暗号資産サービス仲介業(暗号資産・ステーブルコイン仲介業)は、暗号資産関連業務のうち「媒介」という機能を切り出し、交換業の登録によらない軽量な登録の枠組みとして整備された制度です。所属制・利用者財産の預託禁止・所属業者の損害賠償責任という建付けにより、参入のハードルを下げつつ利用者保護を確保する設計になっています。
事業会社やウォレット事業者にとっては、自社サービスに暗号資産・ステーブルコインの取引導線を組み込む選択肢が制度として整ったといえます。ただし、その活用は「媒介に該当するか」という入口の見極めと、「自社のモデルに照らして実際にどこまでの態勢が必要か」という出口の設計に強く依存します。両者はいずれも、所属業者との役割分担をどう組むかと不可分です。「規制緩和の号砲」というよりは、参入の選択肢が制度として用意され、検討が現実的になった段階と捉え、自社の事業モデルに引き寄せて具体的に検討を始めることが求められます。あわせて進む暗号資産の金商法移行も視野に入れながら、設計を点検していくとよいでしょう。
Gincoは、暗号資産交換業者・金融機関・事業会社に対し、業務用ウォレットやオンチェーン関連システムの技術基盤と実装支援を提供してきました。仲介業への参入を検討する際には、「媒介」に該当しない設計の検討から、所属先業者とのシステム連携を前提とした構築、利用者への情報提供や安全管理体制の整備まで、制度・技術・実務をつなぐ論点が数多く生じます。
とりわけ、どこまでの態勢を自社で持ち、どこを所属業者と連携・委託で担うかという設計は、システムの作り方と一体で考える必要があります。Gincoは、こうした検討の初期段階から実装フェーズまで、技術と制度の双方を踏まえた支援を行っています。
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