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暗号資産ステーキングとは|仕組み・市場規模・オンチェーン金融における企業活用の論点

公開日
2026-06-17
更新日
2026-06-18
株式会社Ginco

暗号資産ステーキングは、単に暗号資産を預けて利回りを得る仕組みではなく、本来はProof of Stake(PoS)型ブロックチェーンの安全性や取引承認を支えるために、ネットワーク参加者が一定の暗号資産を預け入れ、その見返りとして報酬を受け取る仕組みです。現在は、リキッドステーキングやStaking as a Service(SaaS)を介して、機関投資家や企業のトレジャリー戦略にも接続される領域へと発展しています。本記事では、ステーキングの基本原理、発展の経緯、リキッドステーキング、SaaS、市場規模、利回り、企業が検討する際の実務論点を整理します。

ステーキングとは?暗号資産をネットワーク運営に参加させる仕組み

ステーキングとは、PoS型ブロックチェーンにおいて、一定量の暗号資産をネットワークに預け入れ、取引承認やブロック生成に参加する仕組みです。PoS型ネットワークの参加者は「バリデーター」と呼ばれ、取引の正しさを確認し、チェーン上の状態を更新します。その際、参加者は対象トークンをステーク、つまり担保のように預け入れます。

米国SECのDivision of Corporation Financeは、2025年5月の声明でPoSを「ネットワークに価値を拠出したノード運営者がブロック検証に選ばれる仕組み」と説明し、バリデーター報酬は新規発行される暗号資産と取引手数料の一部から構成されると整理しています。

重要なのは、ステーキングが「預金」や「貸付」とは異なる点です。 預金は銀行が利用者の資金を貸出や有価証券運用に用いる仕組みで、レンディングは借り手への貸付の対価として利息を受け取る仕組みです。これに対してステーキングは、本来、ブロックチェーンの合意形成に参加する行為であり、報酬は第三者への貸付対価ではなく、ネットワークの安全性確保に貢献した対価として発生します。したがって、ステーキングは暗号資産運用という金融的側面だけでなく、ブロックチェーンのセキュリティ設計としての側面を併せ持ちます。

なぜステーキングが生まれたのか:PoWからPoSへの流れ

ステーキングが注目される背景には、ブロックチェーンの合意形成メカニズムの変化があります。Bitcoinに代表される初期のブロックチェーンでは、Proof of Work(以下、PoW)が採用され、マイナーが計算資源を投入して暗号学的な問題を解くことでブロック生成に参加していました。一方で、PoWには大量の計算資源と電力を要するという課題があり、より効率的で拡張性のある合意形成が模索されてきました。

PoSは、その代表的なアプローチです。計算資源ではなく、ネットワークのネイティブトークンを預け入れることで、取引承認に参加する権利と責任を持つ仕組みです。Ethereumは2022年9月のThe MergeによりPoWからPoSへ移行し、その後のShanghai/Capellaアップグレードでステーキング済みETHの引き出し機能が有効化されました。 Ethereum公式サイトは、現在のEthereumでは報酬の自動引き出しや、バリデーターの完全退出による元本引き出しが可能であると説明しています。

この移行により、ステーキングは一部のPoSチェーンに限定された仕組みではなく、主要なスマートコントラクト基盤の中核機能として広く認識されるようになりました。同時に、保有するだけの暗号資産から、ネットワーク運営に参加しながら報酬を得る資産へと、暗号資産の位置づけそのものが変化しつつあります。

ステーキング報酬の源泉と利回りの読み方

ステーキング報酬は、主に3つの要素から構成されます。第一にプロトコルによる新規発行報酬、第二に取引手数料の一部、第三にMEV(Maximal Extractable Value)に関連する収益です。MEVはブロック内の取引順序や取引選択によって追加的に得られる価値を指し、Galaxyは、Ethereumのバリデーター報酬についてMEVが年率換算で約1.2%分の上乗せに相当し、バリデーター収入の約20%を占めるとの試算を示しています。

CoinSharesによると、Ethereumのベースライン利回りは一般に2〜3%程度、Solanaなど他のブロックチェーンでは5〜7%程度になる傾向があると説明されています。ただし、この水準はあくまで目安です。利回りはネットワーク全体のステーク量、取引需要、報酬構成(新規発行と手数料・MEVの比率)、バリデーター運用効率によって変動し、チェーンごとに源泉構成が異なるため、単純な数値比較ではリスクと報酬の意味は一致しません。

加えて、表示利回りと実質利回りには差が生じます。SaaSを利用すれば事業者手数料、自社運用ならインフラ・人件費・監査対応のコストが控除されます。さらに、対象暗号資産の価格変動が円建て・ドル建ての総合損益を大きく左右します。企業が検討する際には、表示利回りだけでなく、源泉、変動要因、控除後の実質利回り、価格変動の影響を併せて確認することが重要です。

リキッドステーキングとは?ステーキングの流動性制約を補う発展形

ステーキングはブロックチェーンの合意形成の仕組みとして考案されたため、もともとステーク中の資産を自由に移転・売却・担保にできないという制約がありました。EthereumでもShanghai/Capellaアップグレード以降に引き出しは可能になりましたが、プロトコル上の手続きやキューが存在します。

この制約を補う仕組みがリキッドステーキングです。利用者がETHなどをステークすると、そのステークポジションを表すトークン、**Liquid Staking Token(以下、LST)**を受け取ります。LSTはステーク原資産に対する請求権や経済的価値を表すトークンで、DeFi上で担保、流動性供給、レンディングに利用できる場合があります。

リキッドステーキングは「ステーキングとは別物の高利回り商品」ではなく、あくまでPoSネットワークへのステーキングを基礎としつつ、ステーク中資産を表章するトークンで流動性を高める仕組みです。これにより、直接バリデーターを運用しない小口の参加者でも報酬にアクセスでき、ステーク中資産をDeFi上で再利用することで資本効率を高められるという2つの性格を持ちます。

一方で、リキッドステーキングは単体のステーキングよりも複雑性が増します。LSTが原資産から価格乖離する可能性、リキッドステーキングプロトコルのスマートコントラクトリスク、LSTを担保にさらに借入を行う場合のレバレッジリスクが追加で発生します。なお、特定プロトコルへの資産集中はブロックチェーンの分散性やガバナンスに影響しうる論点ですが、これは利用者個別のリスクというよりネットワーク全体の構造論点です。

企業が検討する際は、「ステーキング報酬を得る部分」と「LSTをDeFi上で運用する部分」を分けて評価することが重要です。前者はPoSネットワーク参加の論点であり、後者は担保運用、流動性管理、スマートコントラクトリスクといった追加論点を伴います。

Staking as a Service(SaaS):機関投資家・企業向けの運用設計

ステーキングが広がるにつれて、SaaSと呼ばれるサービス領域も拡大しています。SaaSとは、利用者が自らバリデーターを構築・運用するのではなく、専門事業者のインフラを利用してステーキングに参加する仕組みです。対象資産の保有者は、ノード運用や障害対応を自社で行わずに、専門事業者を通じてステーキング報酬を得られます。

企業や機関投資家にとってステーキングは、ノードの安定稼働、バリデーター鍵の管理、スラッシング回避、ソフトウェアアップデート対応、障害時の復旧、内部統制と承認フロー、外部委託先管理など、多面的な運用負担を伴います。個人や暗号資産ネイティブ企業であれば自社運用も選択肢ですが、金融機関や大企業ではカストディ・権限管理・監査対応まで含めて設計する必要があります。SaaSはこれらを抽象化し、企業がステーキングに参加しやすい形に整えます。

設計上、SaaSには3つの機能が求められます。第一にバリデーター運用機能として、専門事業者がノードの構築・稼働監視・ソフトウェアアップデート・障害対応を担い、利用者は直接ノードを運用せずにステーキングに参加できます。

第二に、鍵管理設計です。機関投資家や企業の場合、対象資産の「保管」とバリデーターの「運用」をどう切り分けるかが重要になります。実務上は大きく2つのモデルがあります。1つは、カストディ事業者が顧客資産を分別保管したうえでステーキングを実行する「カストディ型」で、資産の保管と運用を同一事業者に集約する形です。もう1つは、資産は自社ウォレットやマルチシグ/MPCで保有し、バリデーター運用のみを専門事業者に委託する「分離型」で、資産の所有・移動権限を社内に残しつつ運用負担だけを外部化します。どちらを採るかで、資産の所有権、再担保利用の可否、規制適合性、責任分界が変わります。米国SECは2025年5月の声明で、カストディ型ステーキングについて、カストディアンが顧客資産を保有し、対象資産が一般事業目的に使われず、貸付・担保提供・再利用されないことなどに言及しています。

第三に、レポーティングとコンプライアンス対応として、報酬の発生・手数料・評価損益・税務処理・監査証跡を、企業が説明可能な形で出力できる体制が求められます。

ただしSaaS利用にも、委託先の運用品質低下による報酬機会の逸失やスラッシング、委託先障害時の影響、カストディと運用が同一事業者に集中することによるオペレーショナルリスクがあります。利回りや手数料だけでなく、委託先の運用実績、SLA、鍵管理方式、責任分界、監査レポートを確認することが不可欠です。

市場規模:ステーキングはどこまで広がっているのか

ステーキング市場を把握する際は、「PoSネットワーク全体のステーク量」「リキッドステーキングのTVL」「リステーキングのTVL」「機関投資家向けSaaS市場」を分けて見る必要があります。同じ「ステーキング」という言葉でも、示す対象が異なるためです。

AMINA Bankは、DeFi Llamaのデータをもとに、2026年1月27日時点でリキッドステーキングのTVLが583.3億ドル、リステーキングのTVLが196.3億ドルに達していると説明しています。これらの数値は、ステーク資産がDeFi上で流動性・担保として再利用される領域の規模を示しています。

機関投資家向けSaaS市場については、CoinSharesが、Coinbase PrimeやFigmentなどが大規模な金融機関の運用・規制・カストディ要件に対応する領域を形成していると整理しており、2024年に58億ドル規模に達し、2033年には333億ドルに成長する可能性を示しています。

これらを並べると、ステーキングが単なる暗号資産保有者向けの機能ではなく、ネットワークセキュリティ、DeFi流動性、機関投資家向け運用インフラにまたがる領域であることが分かります。

企業がステーキングを検討する際の論点

企業にとってステーキングは、暗号資産を「保有資産」から「ネットワーク運営に参加して報酬を生む運用資産」として捉える契機となります。トレジャリー戦略の文脈では、保有資産の一部について、流動性、価格変動、会計・税務、ガバナンスの制約を踏まえながらステーキングの可否を検討する余地があります。AMINA Bankは、機関投資家のステーキング参加が、LST保有からバリデーター運用やガバナンス関与へと成熟しつつあり、共通テーマは「抽象化と統合」だと整理しています。

ただし、ステーキングは元本保証のある仕組みではなく、安易な導入対象ではありません。検討時には少なくとも次の論点を整理する必要があります。

第一に価格変動とロックアップです。報酬が年率数%でも、対象資産の価格変動次第で損益は大きく変わります。また、ステーキング中は一定期間の移転制約が残るため、即時換金可能な資産と分けて管理する必要があります。リキッドステーキングはこの制約を一定緩和しますが、LSTの価格乖離やスマートコントラクトリスクを上乗せするため、単純なリスク消失ではありません。

第二にスラッシングとバリデーター運用リスクです。PoSでは不正行為や重大な運用ミスに対してステーク資産の一部が没収されます。自社運用か外部委託かを選択し、委託先SLA、障害対応、鍵管理、責任分界を設計する必要があります。

第三に秘密鍵管理です。前述のカストディ型と分離型のいずれを採るかに応じて、資産の所有権、分別管理、再担保利用の有無、監査報告、規制対応の整理範囲が変わります。自社管理を選ぶ場合は、ウォレット運用、権限分離、マルチシグ/MPC、バックアップ体制の整備が必要となります。

第四に規制・税務・会計です。ステーキングの法的性質は国・地域・サービス形態によって異なります。米国では2025年5月にSECのDivision of Corporation Financeが、一定のプロトコルステーキング活動について連邦証券法上の証券取引に該当しないとの見解を示しましたが、これは特定条件下のスタッフ見解であり、すべてのステーキングサービスを一律に対象外とするものではありません。導入時には、法務・税務・会計・内部監査・リスク管理部門を巻き込み、対象国・対象サービスごとに整理することが不可欠です。

まとめ

ステーキングとは、PoS型ブロックチェーンにおいて暗号資産をステークし、ネットワークの取引承認や安全性確保に参加する仕組みです。初期はPoWに代わる省エネルギーな合意形成のアイデアとして発展しましたが、現在ではEthereumをはじめとする主要ネットワークの中核機能となり、リキッドステーキングやSaaSを介して、オンチェーン金融の重要な構成要素となっています。

市場規模も拡大しています。2026年初時点でリキッドステーキングとリステーキングのTVLは合計約779億ドル規模に達し、機関投資家向けSaaS市場も2033年に333億ドルへ成長する可能性が示されています。

企業にとってステーキングは、暗号資産を単なる保有資産から、ネットワーク参加を通じて報酬を生む運用資産として捉える入口になります。一方で、価格変動、ロックアップ、スラッシング、カストディ、規制、税務、会計といった論点を丁寧に整理する必要があります。オンチェーン金融やトレジャリー戦略を検討する企業にとっては、利回りだけを見るのではなく、報酬の源泉、リスクの所在、実務運用の体制を分解して把握することが重要です。

Gincoは、金融機関・暗号資産交換業者・大企業に対して、オンチェーン関連システムの構築と実装支援を提供しております。

ステーキングについては、自社でもネットワークのバリデータとして複数のブロックチェーン上でステーキングを実施するとともに、法人向けのSaaSを提供しています。

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