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CLARITY法案の概要と現状|米国デジタルアセット市場構造法案の中身と日本の金融機関が押さえるべき論点とは?

公開日
2026-06-10
更新日
2026-06-10
森川夢佑斗

米国で、暗号資産やステーブルコインといったデジタルアセットの規制のあり方を根本から定めようとするCLARITY法案(Digital Asset Market Clarity Act、H.R.3633)が、成立に向けて前進しています。本記事では、「あるトークンは証券か商品か」という米国の積年の問いに立法で答えようとするこの法案について、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄分担、トークンが発行から流通へ移るなかでの規制の切り替わり、「成熟したブロックチェーン」という新概念、そして日本の金融機関が押さえるべき論点までを、米国の一次情報をもとに整理します。

CLARITY法案とは何か — いま注目される理由

CLARITY法案は、暗号資産・ステーブルコインといったデジタルアセットの「市場構造」、すなわち誰がどの資産をどの規制のもとで扱うのかという枠組みを、連邦法のレベルで定めようとする法案です。米国ではこれまで、個別の訴訟や当局の執行を通じて規制の輪郭が事後的に形作られてきました。この法案は、そうした不確実性を立法によって解消し、事業者が事前に予見できるルールを整えることを狙いとしています。

注目が高まっているのは、法案が成立に向けた現実的な局面に入ったためです。これまで米国では「証券か商品か」という分類が定まらず、同じトークンであっても規制当局によって扱いが分かれる状況が続いてきました。CLARITY法案は、この積年の対立に立法で決着をつけようとする点で、米国の暗号資産規制史上でも大きな意味を持つと位置づけられています。

本記事で解説する制度の中身は、現時点の法案に基づく内容です。審議の状況は日々動いているため、まず現在地について確認しておきます。

【CLARITY法案を巡る議論とその状況(2026年6月時点)】

CLARITY法案は、2026年5月14日に上院銀行委員会を15対9の超党派で通過し、6月初めには上院の立法カレンダーに登載されて本会議での審議を待つ段階にあります。フィリバスター(議事妨害)を回避して可決するには60票が必要とされ、共和党は53議席のため、民主党などからの追加の賛成が成立の鍵を握ります。下院は2025年7月17日に294対134で可決済みで、上院を通過すれば、両院の文言を調整したうえで成立に至る流れです。

成立の見通しを左右しているのは、これから解説する管轄の分担そのものよりも、その周辺の合意形成上の論点です。なかでも調整を難しくしている要因のひとつが、ステーブルコインに利回り(yield)を付けてよいかという問題です。銀行業界は、利子に類する報酬を与えることへの規制を強化すべきだと主張しています。十分なガードレールがなければ、利用者が銀行預金からステーブルコインへ資金を移し、地域の融資や経済活動を支える銀行の資金調達基盤が細りかねない、という懸念です。

この論点は、CLARITY法案の中心線である「あるトークンは証券か商品か」という管轄の振り分けとは別の次元にあります。CLARITY法案は決済用ステーブルコインそのものを一から規律する法案ではなく、その監督は別途の枠組みに委ねる立て付けだからです。それでも争点になるのは、市場構造全体を方向づけるこの法案の審議が、既存の銀行システムとの利害調整という、より広い金融政策の文脈に置かれているためです。こうした論点(議員らに適用される倫理規定なども含む)の調整が続き、ホワイトハウスが当初示した7月4日の署名目標は過ぎました。夏の議会休会前に可決できなければ、次の現実的な機会が大きく後ろにずれる可能性も指摘されています。

法案が解こうとする問題 — 「証券か商品か」の対立

CLARITY法案の中身に入る前に、この法案がそもそも何を解決しようとしているのかを押さえておくと、全体像が理解しやすくなります。

米国では長らく、暗号資産が「証券(securities)」なのか「商品(commodities)」なのかという分類が定まっていませんでした。証券であればSEC、商品であればCFTCが所管するという建付けのため、この分類は単なる呼び名の問題ではなく、どの当局のどのルールに従うのかを左右する実務上の重大事です。多くのトークンについて、この線引きが訴訟や個別の執行を通じて事後的に争われてきたことが、米国の事業者にとって大きな不確実性となっていました。

CLARITY法案は、この問いに統一的な基準を立法で与えます。デジタルアセットを「デジタルコモディティ(digital commodity)」「投資契約資産(investment contract asset)」「ステーブルコイン」といったカテゴリに整理し、それぞれをどの当局が所管するのかを法律で定めることで、分類を巡る積年の対立に決着をつけようとするものです。

管轄の分担 — SECとCFTCの役割の線引き

CLARITY法案の骨格は、SECとCFTCの管轄を資産の性質に応じて切り分ける点にあります。法案は、ブロックチェーンの利用と機能から本質的に価値が生じるトークンを「デジタルコモディティ」と定義し、その現物(スポット)市場の主たる規制権限をCFTCに与えています。 一方で、株式や債券のような権利を表すトークン、すなわち投資契約資産やトークン化された証券は、引き続きSECの管轄に置かれます。

ここでデジタルコモディティとは、価値がブロックチェーンの利用そのものに本質的に結びついた資産を指し、証券・デリバティブ・ステーブルコインは定義から除外されます。法案が成立すれば、暗号資産市場のうち最も活発に取引されているブロックチェーン由来のトークンの多くが、証券ではなく商品として扱われ、その流通市場の監督がCFTCに移ることになります。これは、現物市場に対して不正・相場操縦への限定的な権限しか持たなかったCFTCにとって、権限の大きな拡大を意味します。

ステーブルコインは、これらとは別のカテゴリとして扱われます。決済用ステーブルコインそのものは銀行規制当局の監督下に置かれ、SECとCFTCは登録された取引プラットフォーム上での不正・相場操縦に対する権限を分担する形が想定されています。

図1:SEC・CFTC・銀行規制当局の管轄分担。資産の性質に応じて所管が切り分けられる。

トークンのライフサイクルと規制の移動

CLARITY法案の特徴的な点は、同じトークンであっても、その「ライフサイクル」のどの段階にあるかによって適用される規制が移っていく構造を採っていることです。この発想は、デジタルアセットの規制を考えるうえで示唆に富みます。

法案では、トークンが最初に発行され資金調達に用いられる「一次取引」の段階はSECの管轄に置かれ、発行後にトークンが一般の買い手・売り手の間で取引される「流通取引」の段階ではCFTCの管轄へと移ります。 発行体が新規のトークンを売り出して資本を調達する局面は、投資契約資産に関するルールを通じてSECの所管に入ります。しかし、トークンが発行体の手を離れて市場で取引されるようになると、証券としての性格は薄れ、デジタルコモディティとしてCFTCの市場ルールのもとで規制されます。

つまり、トークンそのものは変わらないのに、資金調達の段階ではSECの開示ルールに、流通の段階ではCFTCの市場ルールに服するという、二段階の構造になっているわけです。法案は、この移行を支えるために、発行体に対して一定の開示を求める仕組みを用意しています。

図2:トークンのライフサイクルと規制の移動。発行はSEC、流通はCFTCへ移り、その境目に成熟認定が置かれる。

「成熟したブロックチェーン」という概念

ライフサイクルの考え方と密接に結びつくのが、「成熟したブロックチェーン(mature blockchain system)」という法案独自の概念です。これは、デジタルアセットの規制を考えるうえで核となる発想であり、CLARITY法案を理解する鍵といえます。

法案は、ブロックチェーンが中央の発行体や特定のグループに実質的に依存せずに機能する状態に至ったとき、そのネットワークを「成熟した」ものとして認定する仕組みを設けています。 法案が示す成熟性の要件は、おおむね次の四つです。

  1. 取引の実行・サービスへのアクセス・取引の検証やガバナンスへの参加といった用途で機能していること
  2. オープンソースのコードで構成されていること
  3. あらかじめ定められた透明なルールのもとで運営されていること
  4. いずれの個人やグループの支配下にもないこと(一者が20%以上のトークンを保有して支配する状態を含まない)

成熟したと認定された段階では、発行体は、当初の資金調達に紐づくSEC型の開示義務を負わなくてよくなります。価値が中央の管理者ではなくブロックチェーンの利用と機能から生じている、という状態を法的な基準に落とし込んだものです。

この認定が実務的に重要なのは、それがプロジェクトの関係者(発行体やインサイダー)が流通市場でトークンを売却できる時点を画する仕組みでもあるためです。これは、株式の新規公開(IPO)における一定期間の売却制限(ロックアップ)に似た発想で、ブロックチェーンが十分に分散化したと認定されるまでは、当初の関係者による売却に制約をかける構造になっています。

認定のプロセスには、自己認証と当局による確認の組み合わせが採られています。発行体などが、ブロックチェーンが特定の者の支配下にないことを示す情報を添えてSECに届け出ると、そのブロックチェーンとトークンは「成熟している」と推定されます。これに対してSECは、原則として60日以内であれば異議を申し立てることができ、申立てが認められて認証が却下された場合、そのブロックチェーンは90日間は再び認証を申請できないとされています。最終的には連邦裁判所での争いに持ち込める構造です。成熟性の判断にあたっては、ブロックチェーンの運営状況、トークンの機能や市場価値、ガバナンスの集中度合いといった要素が考慮されることになっています。

この仕組みは、「分散化の程度」という本来は連続的でとらえにくい性質を、規制上の区分として運用可能な形に変換しようとする試みといえます。ただ、どの時点をもって「中央への依存がなくなった」と判断するのかは、運用上の難しさを残す論点でもあります。

事業者に課される登録と義務 — 暫定登録制度

デジタルコモディティを扱う事業者には、CFTCへの登録と一連の義務が課されます。法案は、デジタルコモディティを扱う事業者を「デジタルコモディティ取引所(DCE)」「デジタルコモディティブローカー(DCB)」「デジタルコモディティディーラー(DCD)」の3つの区分に分け、それぞれにCFTCへの登録を求めています。 登録した事業者は、全米先物協会(NFA)に相当する登録先物協会への加入も求められます。

実務上重要なのは、本格的なルールがすべて整う前から事業を続けられるよう、「暫定登録(provisional registration)」の枠組みが用意されている点です。事業者は、詳細なルールブックがまだ整備されていない段階でも登録を申請でき、暫定的な地位のもとで、それ以前から取引されていたデジタルアセットの取り扱いを継続できます。新規のルールが施行された時点で、本登録へと移行する流れです。

また、取引所などがトークンを新規に上場する際には、ソースコードへの参照、取引履歴、トークンの供給・発行に関する情報といった事項の開示が求められます。個人投資家に対しては、取引の前に、ブロックチェーンの成熟性の状況などリスクに応じた説明を提供することが必要とされています。これらは、伝統的な金融市場で求められてきた顧客資産の分別管理や適切な保管、市場監視といった規律を、デジタルアセットの市場にも及ぼそうとするものです。

ルールの整備には相応の時間がかかる見込みです。SECとCFTCによるルール策定は最大で18カ月程度を要するとされ、主要なルールが効力を持つのは早くても法案成立から1年以上先になると見られています。つまり、法案が成立しても、執行可能なルールが実際に出そろうのは2027年以降になるという時間軸を、あらかじめ織り込んでおく必要があります。

日本の金融機関が押さえるべき論点

CLARITY法案は米国の国内法であり、日本の事業者に直接適用されるものではありません。しかし、その設計思想には、日本の金融機関が自社のデジタルアセット戦略を考えるうえで参照すべき要素がいくつもあります。

第一に、「機能ごとに規制カテゴリを切り出す」という発想です。 CLARITY法案は、発行・流通・媒介といった機能の違いに応じて、適用される規制と所管当局を切り分けています。日本でも、2026年6月に「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」が新設され、売買・交換の「媒介」という機能だけを切り出して軽量な登録業種として位置づける動きが現れています。機能を単位として規制を設計するという方向性は、日米に共通する潮流として捉えることができます。

第二に、「分散化の程度を規制上どう扱うか」という論点です。 成熟したブロックチェーンという概念は、中央の管理者への依存度を法的な区分に変換する試みです。トークン化された資産やステーブルコインを扱う事業を検討する際、その資産がどの程度中央の主体に依存しているかは、日本の規制を考えるうえでも避けて通れない論点になります。米国の議論は、その判断基準を立法でどこまで定式化できるかという先行事例として参考になります。なお、CLARITY法案のデジタルコモディティの定義は、トークン化された金や石油のような現実資産(RWA)を除外しており、こうした資産は既存の枠組みのもとで扱われます。トークン化に関心を持つ金融機関にとっては、どの資産がどの規制カテゴリに入るのかという線引きそのものが、検討の出発点になります。

第三に、成立の可否そのものへの向き合い方です。仮にCLARITY法案が成立すれば、米国市場でデジタルアセット事業を展開する際の予見可能性が大きく高まり、米国を含むグローバルな事業設計の前提が変わります。一方で、論争点の調整がつかず成立に至らなかった場合は、米国の規制は引き続き個別の執行に依存する状態が続きます。日本の金融機関にとっては、どちらの帰結になっても自社の検討が無駄にならないよう、「米国が機能別・ライフサイクル別に規制を設計しようとしている」という設計思想自体を学び取っておくことに意味があります。

いずれの論点も、すぐに日本の制度や自社の事業に直結するものではありません。しかし、デジタルアセットを巡る規制が世界的にどの方向へ向かっているのかを読み解くうえで、CLARITY法案は重要な手がかりを与えてくれます。足元の審議の行方を追うと同時に、その背後にある設計思想に目を向けることが、中期的な事業判断の材料になると考えるのが適切です。

まとめ

CLARITY法案は、「あるトークンは証券か商品か」という米国の積年の問いに立法で答えを与えようとする試みであり、その核心は、デジタルアセットを機能とライフサイクルの観点から捉え直す点にあります。発行の段階ではSECの開示ルールに、流通の段階ではCFTCの市場ルールに——同じトークンでも置かれる局面によって規制が移っていく構造、そして「成熟したブロックチェーン」という認定を通じて中央への依存度を法的な区分に変換しようとする発想は、デジタルアセットの規制を「資産の呼び名」ではなく「その資産が市場でどう機能しているか」から組み立てようとする方向性を示しています。当社の見立てでは、この機能起点の設計思想こそが、足元の審議の行方とは別に、長く参照される論点になると考えられます。

もっとも、ステーブルコインの利回りを巡る銀行業界との利害調整など、管轄の振り分けとは別の次元にある論点が成立の見通しを左右しており、執行可能なルールが出そろうのは早くても2027年以降と見られています。日本の金融機関にとって重要なのは、成立の可否を見極めることそのものよりも、米国が機能別・ライフサイクル別に規制を設計しようとしているという潮流を、自社のデジタルアセット戦略の前提として早めに織り込んでおくことだと、当社は考えています。

Gincoは、暗号資産交換業者や金融機関、大企業に対して、業務用ウォレットやオンチェーン関連システム、デジタルアセット活用の技術基盤と実装支援を提供しています。CLARITY法案が示すような「機能ごとに規制を切り分け、ライフサイクルに応じて義務を設計する」という考え方は、日本でデジタルアセット事業を構想する際の制度・技術・実務をつなぐ視点と深く重なります。

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森川夢佑斗
京都大学在学中にブロックチェーン事業に着手し、2017年12月に株式会社Gincoを創業。暗号資産やNFTをはじめとするデジタルアセットを活用したWeb3事業創出を支援するクラウドプラットフォームづくりに取り組む。 2019年には、ブロックチェーン業界を代表する起業家としてForbes Next Under30、BUSINESS INSIDER「BEYOND MILLENNIALS」などに選出。『ブロックチェーン入門』『ブロックチェーンの描く未来』、『未来IT図解 これからのブロックチェーンビジネス』『超入門ブロックチェーン』『未来ビジネス図解 これからのNFT』など著書多数。
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