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デジタルアセット運用の内部統制をどう仕組み化するか――取引枠管理・照合・承認フローの統合的アプローチ

公開日
2026-05-22
更新日
2026-05-22
坂根 遼

デジタルアセット運用の内部統制において重要なのは、単にルールを作ることではなく、そのルールが現場で無理なく機能し、かつ後から説明できる状態をつくることです 。本記事では、運用担当者の具体的な動きをイメージしながら、内部統制を支える3つの中核要素――取引枠管理、実行内容の自動照合、裁量判断のデジタル承認フローがどのように連動するのかを整理します。

前回の記事では、デジタルアセット運用の内部統制が難しい理由として、企業が財務戦略として積極的なアセット運用を行うこと自体の難しさと、その対象が暗号資産であることによる固有の難しさという二つのレイヤーを整理しました。特に問題になるのは、裁量判断が発生しやすいこと、通常の承認フローでは市場スピードに対応しにくいこと、そして実行内容・社内プロセス・責任の所在が分断されやすいことです。

では、こうした課題に対して、企業はどのように「仕組み」で向き合えばよいのでしょうか。重要なのは、ルールを作ることではなく、そのルールが現場で無理なく機能し、しかも後から説明できる状態をつくることです。

本記事では、企業内でデジタルアセット運用を担う担当者の動きを具体的にイメージしながら、内部統制を支える3つの中核要素――取引枠管理、実行内容の自動照合、裁量判断のデジタル承認フロー――がどのように連動するのかを整理します。

まず、誰のための仕組みなのか――DAT運用の現場で起きていること

デジタルアセット運用の内部統制を考えるとき、最初に押さえるべきなのは、「誰が」「どんな行動をしているのか」です。

なぜなら、内部統制は抽象的なルールの話ではなく、現場で実際に資産へアクセスし、情報を見て、判断し、処理を実行する人の行動をどう設計するかという話だからです。

たとえば、ある企業でDAT運用を担うアセマネ担当者を想像してみてください。担当者は日々、次のような行動を行っています。

  • 保有資産の残高やポジション状況を確認する
  • 取引所やウォレット、DeFiプロトコルの状況をチェックする
  • 市場価格や流動性、スプレッド、ネットワーク状況を見て売買や送金の判断をする
  • 必要に応じて、取引方針の変更や追加の資金移動を検討する
  • 実際に、取引所で売買したり、ウォレットから送金したり、DeFi上で運用を実行したりする

ここで重要なのは、これらが単なる「作業」ではなく、会社の資産に対するアクセス権限を伴う判断と実行の連続だということです。しかも、暗号資産では市場が24時間365日動き、オンチェーンでの送金や実行は即時性が高いため、通常の社内承認フローだけでは間に合わない場面も生じます。前回の記事で整理した内部統制の難しさは、まさにこうした現場のオペレーションの中で顕在化します。

つまり、このソリューションが解決しようとしているのは、抽象的な「統制の課題」ではありません。アセマネ担当者が日々行う具体的なアクセス、判断、実行を、会社として許容できる形に整え、その記録を後から説明可能にすることです。

内部統制は「ルール」だけでは機能しない

暗号資産やデジタルアセットに限らず、内部統制の設計で陥りやすいのが、「厳格な規定を設ければ統制が効く」という考え方です。しかし、実務ではルールがあるだけでは運用は安定しません。現場で資産へアクセスする担当者が、何を見て、何を判断し、何を実行できるのかが曖昧なままでは、統制は担当者のリテラシーや善意に依存してしまいます。

たとえば、「一定金額以上の取引は承認が必要」という規定だけが存在していても、現場では次のような曖昧さが残ります。

  • どの取引所やウォレットへのアクセスが許容されているのか
  • どのトークン、どのネットワーク、どの送付先が通常運用として認められているのか
  • 市場急変時に、どこまでを担当者判断で実行してよいのか
  • 例外的な判断をどこに記録し、誰がどう承認するのか

こうした前提がシステムとして明確になっていないと、結局はチャット、口頭、個人の判断に依存する運用になりやすくなります。そしてその状態では、実行の妥当性を後から説明することも、監査に耐える形で証跡を残すことも難しくなります。

重要なのは、事前に許容された範囲を定義し、実行された内容を自動で照合し、例外的な判断もデジタルな承認フローで残すことです。つまり、ルールを「守らせる」のではなく、ルールが現場の行動を自然に制御し、その結果が自動で記録される状態をつくることが重要です。

機能1 取引枠管理――「どこまで動いてよいか」を明確にする

内部統制の土台になるのが、あらかじめ承認済みの条件を「取引枠」として定義し、その範囲内での活動を管理する考え方です。これは、単に制限をかけるための仕組みではなく、アセマネ担当者が通常業務としてどこまで動けるのかを明確にするための仕組みです。

たとえば、担当者ごとに次のような条件を設定します。

  • 取引可能な金額の上限
  • 対象となるトークンや通貨
  • 利用可能なネットワーク
  • 接続可能なCEX/DEX
  • 許可された送金先アドレス
  • 取引枠の有効期限

この状態になると、アセマネ担当者は、毎回ゼロから「これは実行してよいのか」を確認する必要がなくなります。たとえば、日常的なリバランスのために特定取引所でBTCを一定範囲売買する、あるいは承認済みのウォレット間で資産移動を行うといった行為は、通常運用として許可された行動として扱えます。逆に、その範囲を超える取引や送金は、自動的に「例外」として扱われるべきだと明確になります。

ここでの価値は、「何が禁止されているか」ではなく、「何が通常業務として許可されているか」が可視化されることです。これは現場にとっても重要です。なぜなら、担当者はルールに縛られるのではなく、許可された範囲の中では迷わず動けるようになるからです。統制とスピードの両立は、まずこの前提づくりから始まります。

機能2 実行内容の自動照合――「枠内で動いたか」を機械的に確認する

取引枠を定義しただけでは、統制は完成しません。次に必要なのは、実際に行われた取引や送金が、その承認済み範囲に収まっていたかを自動で確認することです。これを担うのが、取引内容やオンチェーン上のトランザクションを監視し、登録された枠と照合する仕組みです。

アセマネ担当者の実務を考えると、この機能の意味は非常に大きいです。担当者は日々、取引所で売買したり、ウォレットから送金したり、場合によってはDeFiプロトコルへ資産を移したりします。そのたびに管理部門や監査人が個別にチェックしていては、スピードも再現性も担保できません。だからこそ、「承認済みの範囲」と「実際の実行結果」を自動で突き合わせる仕組みが必要になります。

この照合によって、たとえば次のようなことがわかるようになります。

  • 許可された取引所で、承認済みの対象資産だけを扱っていたか
  • 許可されたウォレットやアドレス宛にだけ送金していたか
  • 金額上限を超える取引がなかったか
  • 通常枠から逸脱した実行が発生していないか

重要なのは、これが後から一覧を見て確認するだけでなく、運用中に逸脱を把握できることです。つまり、照合機能は単なる監査のための記録ではなく、運用中のガバナンスを支えるモニタリング機能でもあります。担当者が通常枠の中で動いている限り、会社は安心してスピードを許容できる。一方で、枠外の挙動があれば、即座に管理上の論点として浮かび上がる。この構造があることで、属人的な運用から脱却しやすくなります。

機能3 デジタル承認フロー――「例外的な判断」を業務の外に逃がさない

現実のDAT運用では、すべてを事前定義された枠の中に収めることはできません。市場急変時の対応、新しい送金先の追加、運用条件の変更、DeFiポジションの調整など、どうしても人間の判断が必要になる場面があります。内部統制の弱点は、多くの場合、この例外的な判断がチャットや口頭で処理されてしまうことにあります。

だからこそ必要なのが、裁量判断を業務の外に逃がさず、システム上で申請・承認・記録するデジタル承認フローです。

アセマネ担当者の行動で考えると、たとえば次のような場面です。

  • 新しいウォレットアドレスへ送金したい
  • 想定以上の価格変動に対応するため、一時的に取引上限を変更したい
  • 通常は使わないDEXやプロトコルを使ってポジション調整したい
  • 既存の運用方針では対応しきれず、例外的な執行判断をしたい

こうした場面で重要なのは、「承認を取った」という事実だけではありません。誰が、どの根拠で、何を申請し、誰がどの判断で承認し、その結果どの実行につながったのかが、実行結果と結びついて残ることです。これがなければ、後から見たときに、取引だけが残り、その背景にある会社としての意思決定が消えてしまいます。

デジタル承認フローの価値は、例外をなくすことではありません。むしろ、例外が発生しても、それを会社として正当に扱える状態にすることにあります。例外判断が可視化され、証跡として残ることで、運用の柔軟性と統制の両立が初めて可能になります。

3つの要素が連動することで生まれる「説明責任」

ここまでの3つの要素は、それぞれ単独でも意味がありますが、真価を発揮するのは連動したときです。

  • 取引枠管理が、通常運用として許容される範囲を定義する
  • 実行内容の自動照合が、実際の行動がその範囲に収まっていたかを確認する
  • デジタル承認フローが、枠外の判断を正当化し、その記録を残す

この3つがつながることで、企業は次の問いに客観的なデータで答えられるようになります。

  • アセマネ担当者は、どこまでの権限で動けたのか
  • 実際に行われた取引や送金は、その範囲内だったのか
  • 範囲外の判断があった場合、それは誰がどのように承認したのか

これは、前回の記事で整理した「実行内容」「社内プロセスの正当性」「責任の所在」を一本の線でつなぐ考え方そのものです。つまり2本目の記事で説明している3機能は、単なる便利機能ではなく、1本目で提示した内部統制要件を現場の業務に落とし込むための実装手段だと言えます。

この仕組みがもたらすベネフィットは、誰にどう効くのか

この統合的な仕組みの価値は、管理部門や監査対応だけにあるわけではありません。むしろ、現場のアセマネ担当者にとっても、非常に大きな意味があります。

担当者にとっては、通常運用の範囲が明確であれば、毎回判断に迷う必要がなくなります。どの取引、どの送金、どのアクセスが許可されているかが明確なら、スピードを維持しながら安心して業務を遂行できます。例外が必要な場合も、非公式なチャットや口頭承認に頼るのではなく、正規のフローに乗せればよいとわかっていれば、判断の負担は軽くなります。そして何より、一つ一つの判断が会社から与えられた裁量や権限から逸脱していないかを懸念する心理的負担からも解放されます。

一方、管理部門や経営層にとっては、属人的な運用から脱却しやすくなります。誰かひとりの経験や善意に頼るのではなく、会社として許容する範囲と、例外時の意思決定が仕組みとして管理されるからです。さらに監査対応の観点でも、実行結果だけでなく、その背景にある承認や責任の所在まで説明しやすくなります。

つまりこのソリューションのベネフィットは、「統制を強める」ことそのものではありません。現場が動ける状態を維持しながら、会社として説明責任を果たせるようにすることにあります。そこに、取引枠管理、照合、証跡化を一体で考える意味があります。

まとめ

デジタルアセット運用の内部統制を仕組み化するとは、単なる監査対応のためにルールを増やすことではありません。重要なのは、企業内で実際に資産へアクセスし、売買し、送金し、DeFiで運用するアセマネ担当者の行動を前提に、通常運用・実行・例外判断を一貫して扱える状態をつくることです。

その中核になるのが、次の3つです。

  • 取引枠管理によって、通常運用として許容される範囲を定義する
  • 実行内容の自動照合によって、本当にその枠内で動いたかを確認する
  • デジタル承認フローによって、例外的な判断も会社の正式な意思決定として残す

この3つが連動することで、スピードを損なうことなく、説明責任を果たせるDAT運用体制に近づくことができます。次の記事では、こうした仕組みを実務にどう導入し、PoCから本番運用にどうつなげていくべきかを整理します。

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坂根 遼
国内メガバンクおよび大手総合コンサルティングファームにて、金融機関を中心に戦略立案から実行支援まで、数多くのプロジェクトに参画。その後、Fintech企業の経営陣として、事業成長と組織基盤の構築を両輪で推進した実績を有する。2024年2月、Gincoに参画し、事業企画室長、事業推進部門長、CRO、副社長を歴任。一貫してビジネスの深化と収益基盤の確立を主導。
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