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電子決済手段等取引業とは何か? 資金決済法のステーブルコイン制度と、企業が検討すべき登録・参入経路を解説

公開日
2026-06-18
更新日
2026-06-18
川口知宏

ステーブルコインを業務に組み込もうとする企業から、「自社で資金決済法上の登録が必要になるのか」「どの登録が要件になるのか」というご相談が増えています。背景には、2023年6月の改正資金決済法施行で「電子決済手段等取引業」という新しい登録制度が動き出したこと、そして2025年6月に成立した改正資金決済法で参入経路がさらに枝分かれしたことがあります。

電子決済手段等取引業は、暗号資産交換業とは別建ての、ステーブルコインの流通レイヤーを担う事業者向けの登録制度です。2025年3月にSBI VCトレード株式会社が国内第1号として登録を受け(関東財務局長第00001号)、外国電子決済手段としてUSDCの取扱が始まりました。同年8月にはJPYC株式会社が資金移動業者として登録し、日本円建てステーブルコインの発行が始動。三菱UFJ信託銀行・Progmat・JPYCの共同検討による信託型ステーブルコインの動きも続いています。

本記事では、電子決済手段等取引業の制度全体像、業務範囲、登録要件、2025年改正の論点を、企業が自社のステーブルコイン関連事業を構想するときに必要となる視点から整理します。ステーブルコインの発行体規制(銀行・資金移動業者・特定信託会社の側)は本記事の主題ではなく、あくまで「流通させる」「媒介する」「預かる」事業者向けの制度に焦点を当てます。

なお、ステーブルコイン自体の意義や企業導入のユースケース、トークン化預金との使い分けについては、以下の関連記事をあわせてご覧ください。

1. 電子決済手段等取引業とは何か

電子決済手段等取引業は、2022年に改正された資金決済法(資金決済に関する法律、以下「資金決済法」)に基づき、2023年6月1日から施行された登録制の事業類型です。資金決済法2条10項では、電子決済手段の売買・他の電子決済手段との交換、これらの行為の媒介・取次ぎ・代理、利用者のための電子決済手段の管理を業として行うことを「電子決済手段等取引業」と定義しています。

国内でこの業務を営むためには、原則として内閣総理大臣の登録(関東財務局等の財務局長への申請)が必要となります。金融庁は公式ページで「法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコインの仲介等を業として行うこと」と説明しています。

重要なのは、電子決済手段等取引業が暗号資産交換業とは別の制度として整備されている点です。 暗号資産交換業がビットコインやイーサリアム等の暗号資産(仮想通貨)を対象とするのに対し、電子決済手段等取引業は法定通貨と連動するステーブルコインの流通を対象とします。発行体が誰か(銀行か、資金移動業者か、信託会社か)にかかわらず、流通させる側の事業者にこの登録が課されます。

つまり、「ステーブルコインを発行する事業者」と「ステーブルコインを流通させる事業者」は別の規制の枠組みで監督されており、本記事の対象は後者です。

2. 電子決済手段の分類——1号から4号と外国電子決済手段

電子決済手段等取引業の理解には、まず取扱対象である「電子決済手段」が何を指すかを押さえる必要があります。資金決済法2条5項は電子決済手段を1号から4号まで分類しています。実務で中心になるのは1号と3号、そして海外発行のステーブルコインを捉える「外国電子決済手段」で、2号・4号は現時点ではほとんど使われない補完的・予備的な区分です。

電子決済手段の号別区分

1号は、不特定の者への代価の弁済に使え、かつ不特定の者を相手方に売買できる通貨建資産で、世間一般がイメージするステーブルコインの多くがここに該当します(電子情報処理組織で移転可能なものに限り、有価証券・電子記録債権・3号・暗号資産は除かれます)。発行は為替取引にあたるため、発行者には資金移動業の登録が求められます。JPYC株式会社が2025年8月に第二種資金移動業者として登録(関東財務局長第00099号)し発行する日本円建てステーブルコインが、国内初の典型例です。なお、1号は法令上は銀行も発行できる建て付けですが、金融庁の監督方針上は当面発行が想定されておらず、現時点で銀行発行の1号は存在しません(日本銀行金融研究所の整理でも同旨)。

海外で発行されたUSDC等は、1号そのものではなく、電子決済手段等取引業者に関する内閣府令30条1項5号が定める「外国電子決済手段」として国内規制に位置づけられ、電子決済手段等取引業者を通じて流通します。外国電子決済手段には、1回あたり100万円以下という移転上限が課される点に留意が必要です。SBI VCトレードが2025年に取扱いを始めたUSDCはこの類型にあたります。なお、海外発行のうち信託型については、内閣府令の改正により電子決済手段(3号に相当する枠組み)として位置づけられる方向で整理が進んでいます。

3号は、信託会社または信託銀行が発行者となる、電子的に記録・移転できる金銭信託受益権(特定信託受益権)です。 1号が為替取引としての発行者規制を前提とするのに対し、3号は信託の枠組みで発行される点が構造的に異なります。信託財産が分別管理され倒産隔離が働くため、企業間の高額決済に親和的とされ、三菱UFJ信託銀行・Progmat・JPYCが共同検討する「JPYC(信託型)」のように、Progmat基盤を活用するメガバンク連携型のステーブルコインがこの類型に該当します。1号のJPYC(資金移動業者発行)と3号のJPYC(信託型)が並存し得る点も、同一発行体が複数の号別区分を提供できる例として押さえておく価値があります。2025年改正法では、3号の裏付資産の運用が柔軟化される予定です(第5章で後述)。

残る2号と4号は、網羅性のために押さえておく区分です。2号は、直接の弁済・売買機能はないものの1号と相互に交換できる財産的価値で、1号と同等の経済的機能を持ち得る設計を規制の網に取り込むための補完規定です。 4号は、1〜3号に準ずるものとして内閣府令で定める委任枠で、現時点で具体的な指定はありません。いずれも実務上の該当例は乏しく、規制の潜脱や新形態の登場に備えた受け皿としての性格が強い区分です。ただし1号と2号の境界は事業設計次第で動き得るため、自社サービスがどちらに該当するかは設計段階での個別確認が必要です。

発行者の選択肢と流通させる事業者の選択肢は独立しているため、自社が扱う電子決済手段の号別区分によって、求められる登録要件・利用者保護措置・AML/CFT対応の水準も変わります。

3. 業務範囲の3類型——売買・交換、媒介・取次ぎ・代理、管理

電子決済手段等取引業の業務範囲は、資金決済法2条10項で次の3つに整理されています。

業務範囲の3類型

「売買・交換」は、自らがカウンターパーティとして利用者と電子決済手段を売買、または異なる電子決済手段を交換する業務です。SBI VCトレードが提供しているUSDC取扱はこの類型に該当します。利用者は事業者の提示するレートで電子決済手段を購入・売却できます。

「媒介・取次ぎ・代理」は、利用者と他の電子決済手段等取引業者・発行者との間に立って、取引を成立させる業務です。媒介は他人の間に入って法律行為の成立に尽力する事実行為、取次ぎは自己の名で他人の計算で取引を引き受ける行為、代理は本人を代理して取引を行う行為と整理されます。たとえば自社サービス内に「USDC両替」の機能を埋め込み、実際の売買は別の電子決済手段等取引業者に取り次ぐような設計は、媒介・取次ぎに該当する可能性があります。

「管理」は、利用者から預かった電子決済手段を保管する業務です。業務用ウォレットを提供して顧客の電子決済手段を保管する場合、たとえ売買・交換を行わなくとも管理業務として登録が必要になります。 暗号資産交換業における「カストディ業務」と並行する位置づけです。

これら3類型のいずれか1つでも該当すれば登録が必要となるため、企業が自社のサービス設計を電子決済手段等取引業のスコープに当てはめる際は、どの行為がどの類型に重なるかを丁寧に洗い出すことが要件確認の出発点になります。

4. 登録要件と求められる体制

電子決済手段等取引業者として登録を受けるには、資金決済法62条以降および電子決済手段等取引業者に関する内閣府令(令和5年内閣府令第48号)が定める要件を満たし、関東財務局等の財務局長に登録申請を行う必要があります。金融庁の事務ガイドライン第三分冊「17 電子決済手段等取引業者関係」が登録審査と監督上の留意点を整理しています。

主な要件は、株式会社または外国電子決済手段等取引業者であること、業務遂行のための財産的基礎、利用者保護措置(説明義務・情報提供・苦情処理)、利用者財産の分別管理、システムリスク管理、内部監査機能、外部委託先管理、AML/CFTの体制整備など。また、電子決済手段等取引業者は犯収法上の「特定事業者」に位置づけられるため、KYC(取引時確認)、疑わしい取引の届出、取引記録の作成・保存も義務付けられます。

要件水準は暗号資産交換業に課される要件とほぼ並行しており、監督官庁との事前相談を含めて相応の準備期間と組織体制が必要です。暗号資産交換業の知見・組織を持つ事業者であっても、申請から登録完了まで数ヶ月単位を見込む必要があります。

5. 2025年改正の要点

2025年6月6日、資金決済法の一部を改正する法律(令和7年法律第66号、以下「2025年改正法」)が成立し、同月13日に公布されました。施行は公布日から1年以内(2026年6月12日まで)に政令で定める日とされ、本記事執筆時点では関係政令・内閣府令の改正案に対するパブリックコメントの手続きが進行中です。

2025年改正法は、ステーブルコイン関連で次の3点を整備しています。第一に、「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」の新設(改正資金決済法63条の22の2以下)。媒介のみを行う事業者向けに、財務要件を課さない軽量な登録制度を設けるもので、所属する電子決済手段等取引業者または暗号資産交換業者の委託を受けて媒介を行う「所属制」が採られ、所属業者が原則として利用者損害の賠償責任を負います。第二に、特定信託受益権(3号電子決済手段)の裏付資産の運用柔軟化。 これまで要求払預貯金のみとされていた裏付資産について、満期3か月以内の日本国債・米国債、および中途解約可能な定期預金(同通貨建てに限定)を発行総額の50%まで等の条件のもとで認める方向で、米国・EUのステーブルコイン規制との整合性を意識した内容です。第三に、国内保有命令の規定整備(改正資金決済法62条の21の2、63条の16の2)。FTX破綻時の対応で浮き彫りになった空白を補い、暗号資産交換業者・電子決済手段等取引業者の両業態に対する資産の国内保有命令の権限規定が新設されます。

6. どのような事業者が登録を検討すべきか

自社サービスにステーブルコインを組み込もうとする企業が登録要否を判定する軸は、おおむね次の4点です。(1)顧客の電子決済手段を預かるか——業務用ウォレットや決済アプリで顧客資産を保管する設計は「管理」に該当し、ノンカストディアル設計でない限り登録対象。(2)売買・交換または媒介行為を含むか——「無償の紹介」でも業として継続すれば媒介とみなされ得るため、サービス導線の設計段階で確認が必要。(3)外貨建て電子決済手段を扱うか——USDC等の外国電子決済手段は1回100万円以下の移転上限など特有の規制が加わる。(4)クロスボーダー送金や収納代行を絡めるか——2025年改正法でクロスボーダー収納代行は為替取引として明示的に位置づけられたため、資金移動業の論点も並走する。

7. ステーブルコイン関連事業の参入経路

登録要否が判定できたら、次は参入経路の選択です。実務上は次の3経路に整理できます。

関連事業の参入経路

自社で電子決済手段等取引業のフル登録を取得する経路(SBI VCトレード型)、2025年改正で新設される新仲介業を活用する経路(媒介のみ・軽量登録)、発行体側に回る経路(銀行・資金移動業者・特定信託会社として発行、JPYC型・Progmat型)の3つです。

多くの企業にとって現実的な出発点は、「自社が発行・流通・媒介・管理のどこを担い、どこを既存業者に任せるか」を明確にしたうえで、対応する登録要件を確認することです。 ステーブルコインの業務組み込みは、技術検証よりも事業モデルと組織体制の設計が先行する段階に入っています。

ユースケース別の検討論点(クロスボーダー決済、グループ財務、AIエージェント決済、RWA決済、海外報酬支払いなど)や、トークン化預金との使い分けについては、以下の関連記事で詳しく整理しています。

まとめ

電子決済手段等取引業は、ステーブルコインの流通レイヤーを担う事業者向けの登録制度です。登録の要否は、顧客資産を預かるか、売買・交換または媒介を行うか、外貨建てを扱うか、クロスボーダーに関与するかという4つの軸で判定でき、参入経路はフル登録・新仲介業・発行体側の3つに整理できます。重要なのは、自社が発行・流通・媒介・管理のどの役割を担い、どこを既存業者に任せるかを先に決め、その役割に対応する登録要件を確認する順序で進めることです。制度・実務・技術がそろい始めた現時点では、構想段階の早い時期に登録経路を絞り込んでおくことが、その後の事業設計の自由度につながります。

Gincoは、暗号資産交換業者、金融機関、大企業に対して、業務用暗号資産ウォレット、オンチェーン関連システム、デジタルアセット活用に関する技術基盤と実装支援を提供しています。電子決済手段等取引業をはじめとするステーブルコイン関連事業は、制度要件・システム要件・実務オペレーションが密接に絡み合う領域であり、Gincoはこの結節点で支援を提供します。

電子決済手段等取引業の登録準備に伴うデジタルアセットインフラの設計、信託型・資金移動業型ステーブルコインの取扱に対応するシステム要件の整理、自社ビジネスにステーブルコイン決済を組み込む際のスキーム検討などが可能です。

皆さんのデジタルアセット活用やオンチェーン金融事業実現を専門家チームが支えます。事業全体の構想からシステム要件定義、開発、保守運用まで、あらゆるフェーズからプロジェクトに伴走しますので、ぜひお気軽にご相談ください。

免責事項

本記事は2026年5月時点で公表されている法令・公式資料・専門解説等に基づいて電子決済手段等取引業の制度を一般的に整理したものであり、個別事案への法令適用に関する見解を示すものではありません。2025年改正資金決済法は本記事執筆時点では施行政令未確定であり、関係政令・内閣府令およびガイドラインの詳細は、今後の公表内容によって変更される可能性があります。実際の登録要否・要件適合性の判断は、最新の法令・ガイドラインを確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

参考文献

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川口知宏
Gincoの事業戦略の策定・遂行を統括。Ginco入社以前は大手コンサルティング会社におけるブロックチェーン領域のGlobal Council APAC Leadおよび国内の関連コンサルティング業務をリード。INSEAD MBA。米国アクチュアリー会 正会員。
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