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ノンカストディアルウォレットとは?仕組み・分類・オンチェーン金融における役割を解説

公開日
2026-05-20
更新日
2026-05-20
坂根 遼

日本でも近年、次世代AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチームの発足や大手金融機関によるブロックチェーン活用の本格化を契機に、「オンチェーン金融」という言葉が政策や事業の議論で取り上げられるようになってきました。それに伴い、改めて注目を集めているのが「ノンカストディアルウォレット」です。

これまで暗号資産ウォレットは、暗号資産を保有・送受信するためのツールと理解されてきました。しかし、ステーブルコイン、トークン化資産、DeFi、NFT、オンチェーンIDなどの利用が広がるにつれ、ウォレットは単なる保管手段ではなく、ユーザーがオンチェーン上の経済圏に参加するための「入口(インターフェース)」として位置づけられつつあります。インターネット時代におけるブラウザ、スマートフォン時代におけるアプリストアやPayアプリに近い役割と言えます。

金融審議会でも、暗号資産や電子決済手段をめぐる制度整備の中で、ノンカストディアルウォレット等を提供する事業者と暗号資産交換業者との連携が議論されています。2025年の資金決済法改正では、暗号資産等の売買・交換の媒介のみを行う新たな仲介業を創設する規定が整備され、公布日から1年以内に施行予定とされています。

直近では、KDDIとコインチェックが資本・業務提携を発表し、au経済圏におけるデジタル資産アクセスの拡大やノンカストディアルウォレット事業の推進方針を示しました。KDDIの3,000万人超の顧客基盤や銀行・決済アセットと、コインチェックの暗号資産領域の基盤を組み合わせる構想です。これは一例ですが、既存の大規模顧客接点とオンチェーン金融経済圏をつなぐインターフェースとして、ウォレットが捉えられ始めていることを示す動きです。

本記事では、ウォレットの仕組みを整理したうえで、ノンカストディアルウォレットの分類・制度上の位置づけ・事業上の意味を解説します。

そもそもウォレットとは何か

暗号資産やWeb3の文脈で使われるウォレットとは、ブロックチェーン上の資産や権利を操作するためのインターフェースです。

「暗号資産を保管する財布」と説明されることもありますが、実態は少し異なります。暗号資産は、ブロックチェーンという分散台帳ネットワーク上に記録された残高そのものであり、ウォレットの内部にデータとして保管されているわけではありません。

ウォレットが管理しているのは、その残高を動かすための「署名鍵(秘密鍵)」です。署名鍵は、銀行取引における銀行印や、オンラインバンキングのワンタイムパスワードに近い役割を果たします。ユーザーはウォレットを通じて署名鍵を用い、送金やアプリ利用などのトランザクションに署名します。

つまりウォレットは、「資産そのものの保管場所」ではなく、ブロックチェーン上の残高や権利に対して操作・承認の指示を出すためのアプリだと考えるとイメージしやすいでしょう。ユーザーから見れば資産を保有・送受信しているように感じますが、その裏側ではブロックチェーン上の残高に対して署名付きの指示を出している、という構造です。銀行アプリで残高を確認し、振込を承認する感覚に近いとも言えます。

2025年のWeb3ウォレットに関する研究報告書でも、ウォレットの機能は、署名鍵の生成・管理、電子署名の作成、ブロックチェーン上のサービスへのアクセス窓口として整理されています。暗号資産取引所、DeFi、NFTマーケットプレイスへの接続機能も、ウォレットの重要な役割です。

このように考えると、ウォレットは暗号資産を使うための周辺ツールではなく、オンチェーン上の資産・権利・サービスをユーザーが実際に操作するための入口だと位置づけられます。

ノンカストディアルウォレットの分類

ウォレットには複数のタイプがあり、その中でノンカストディアルウォレットがどこに位置づくのかを理解しておくと、設計や事業判断がしやすくなります。ここでは主な分類軸を紹介します。

署名鍵を誰が管理するか

ウォレットを分類するうえでまず押さえたいのが、署名鍵を誰が管理するかです。

カストディアルウォレットは、暗号資産交換業者などの事業者がユーザーの署名鍵(あるいはそれに相当する資産移転権限)を管理する方式です。ユーザーは銀行アプリや証券アプリに近い感覚で、ID・パスワードや本人確認を通じてサービスを利用します。署名鍵を自分で管理する必要がなく、パスワードを忘れた場合の復旧やカスタマーサポートも受けやすいのが利点です。一方、事業者側に資産移転権限が集中するため、セキュリティ管理、分別管理、破綻時の利用者保護が重要になります。

ノンカストディアルウォレットは、ユーザー自身が署名鍵を管理する方式です。サービス提供者は署名鍵に触れることができず、ユーザー資産を一方的に動かすことはできません。なお、金融行政や研究報告書では、事業者管理型のウォレットを「ホステッドウォレット」、ユーザー管理型のウォレットを「アンホステッドウォレット」と呼び分けることがあります。アンホステッドウォレットはノンカストディアルウォレットとほぼ同義で、本記事ではノンカストディアルウォレットという呼称で統一します。

ノンカストディアルウォレットの特徴は、ユーザー自身の意思に基づいてDeFiやNFTマーケットプレイスなど多様なオンチェーンサービスに接続しやすいことです。カストディアルウォレットでは署名鍵を事業者に預けているため、外部サービスへの柔軟な署名が制約されがちですが、ノンカストディアルウォレットではユーザー意思に基づくアクセスが可能になります。

ただし、ノンカストディアルウォレットは「ユーザーにすべての負担を負わせるウォレット」ではありません。署名鍵やリカバリーフレーズを紛失すれば資産にアクセスできなくなり、悪意あるアプリへの署名やフィッシング被害のリスクもあります。したがって、署名内容の可視化、リスク警告、危険な接続先の検知、バックアップ支援、リカバリー設計などを通じて、自己管理を前提にしつつ利用者保護とUXを両立する設計が求められます。

匿名で使うか、顕名で使うか

もうひとつ重要なのが、ウォレットを匿名的に使うか、顕名的に使うかという観点です。

匿名ウォレットは、ウォレットアドレスと実名情報が直接紐づいていない状態で利用されるウォレットです。オンチェーン情報だけでは利用者を特定できない場合があり、プライバシーや自己主権性の観点では重要ですが、AML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)や不正利用対策ではリスク管理が課題になります。

顕名ウォレットは、ウォレットアドレスが本人確認済みのユーザー、会員ID、金融機関口座、決済アカウントなどと紐づく形で利用されるウォレットです。暗号資産交換業者、金融機関、通信・決済プラットフォーマーと連携する場合は、KYC済みユーザーとの接続を前提に設計されることが一般的です。

MetaMaskに代表される従来のノンカストディアルウォレットは匿名利用を前提としてきましたが、企業が提供を検討する場合は、用途に応じて顕名性のレベルを設計することが現実的になりつつあります。特に、法定通貨との交換、ステーブルコイン決済、トークン化資産へのアクセスを伴う場合は、本人確認済みアカウントとの連携が必要になる可能性が高まります。

利便性と安全性の設計

このほかにも、インターネット接続下で日常利用する「ホットウォレット」と、隔離環境で長期保管する「コールドウォレット」の区別、単独鍵管理か、マルチシグ・MPC・秘密分散・アカウントアブストラクションといった高度な技術を組み合わせるかなど、複数の設計要素があります。

「カストディアルかノンカストディアルか」はウォレット設計を左右する最重要変数の一つですが、これらの要素と柔軟に組み合わせて、事業ごとに最適な実装を模索することが重要です。

法的・制度的な位置づけ

企業がノンカストディアルウォレットを扱う際には、技術的な分類だけでなく、制度上の位置づけを理解する必要があります。

日本では、他人のために暗号資産を管理することを業として行う場合、暗号資産交換業に該当し得ます。2025年のWeb3ウォレット研究報告書では、カストディ業務該当性について、事業者が「主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態」にあるかが重要な判断軸とされています。サービス提供者が利用者の署名鍵にアクセスできず、資産を移転できないノンカストディアルウォレットは、一般にカストディ業務には該当しにくいと考えられます。

ただし、ノンカストディアルウォレットであっても、暗号資産の売買・交換やその媒介に関与する場合は別の論点が生じます。たとえばウォレット内に取引画面を組み込む、スワップ機能を提供する、法定通貨とのオンランプ・オフランプを実装するといった場合には、媒介該当性や仲介業の枠組みを検討する必要があります。

この点で重要なのが、令和7年資金決済法改正による電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の創設です。金融庁の資料では、電子決済手段や暗号資産の取引の媒介のみを行う事業者がサービス提供を行いやすくする観点から、新たな仲介業類型が整備されたと説明されています。これにより、ウォレット事業者やプラットフォーマーは、暗号資産交換業者などと連携しながらシームレスなユーザー体験を設計しやすくなる可能性があります。

さらに、暗号資産取引を金融商品取引法の規制対象とする議論も進んでおり、これに伴って暗号資産仲介業を金商法上の仲介業規制の対象とすることが適当との論点も示されています。ウォレット実装では、現在の資金決済法上の整理だけでなく、今後の金商法上の仲介業規制、広告規制、説明義務との接続も見据える必要があります。

オンチェーン金融におけるインターフェースとしての役割

オンチェーン金融とは、ブロックチェーン上で資産の発行・保有・移転・決済・運用などを行う金融のあり方です。台帳上に資産や取引の状態が記録され、スマートコントラクト(プログラム化された契約)を通じて処理されるため、従来の金融システムとは異なる接続性や透明性を持ちます。

このオンチェーン金融を、ユーザーが実際に利用するためのインターフェースがウォレットです。ここでいうインターフェースとは、ユーザーとサービスの間に立ち、残高の確認、操作の指示、結果の受け取りといったやり取りを仲介する仕組みのことを指します。インターネットにおけるブラウザ、スマートフォンにおけるPayアプリのように、利用者がサービスに触れるための入口にあたるものだと考えるとイメージしやすいでしょう。

金融サービスにおいては、インフラとインターフェースを分けて考える必要があります。ブロックチェーン、ステーブルコイン、トークン化資産、DeFiプロトコルはオンチェーン金融のインフラや商品にあたりますが、ユーザーがそれらに触れるには、残高を確認し、内容を理解し、承認し、結果を確認するためのインターフェースが必要です。その役割を担うのがウォレットです。

重要なのは、ウォレットを経由してアクセスする対象は事業者が選択的に設計できるという点です。どのチェーンに対応するか、どの資産を表示するか、どのDAppsに接続できるか、危険な操作をどう警告するかによって、実際にアクセスできるオンチェーン経済圏の範囲が決まります。ノンカストディアルウォレットの価値は、単に「ユーザー自身が鍵を持てる」ことではなく、ユーザーがどのような経済圏に、どの程度安全に、どのようなUXで参加できるかを設計できる点にあります。

企業にとっての事業機会

ノンカストディアルウォレットがもたらす事業機会は、企業の立場によって異なります。大きく分けると、プラットフォーマーとして顧客接点を押さえる場合と、個別サービスにオンチェーン体験を組み込む場合があります。

プラットフォーマー型:顧客接点を押さえる

IT・通信・決済・金融などの事業資産を持つプラットフォーマーにとって、ノンカストディアルウォレットは、オンチェーン金融経済圏における顧客接点を押さえるインターフェースになり得ます。

これは、インターネットにおけるブラウザ、スマートフォンにおけるOSとアプリストア、キャッシュレス決済におけるPayアプリと似た構図です。ユーザーがどの入口からサービスにアクセスし、どの残高を確認し、どの資産を使うのか。その接点を押さえることは、顧客接点と資金流通の「面」を押さえることにつながります。

オンチェーン金融経済圏では、この入口がウォレットになります。プラットフォーマーは、ウォレットを起点に、既存のポイント、決済、銀行、証券、EC、コンテンツ、通信契約などと、オンチェーン上の資産・権利を接続する余地があります。

KDDIとコインチェックの提携も、この文脈で理解できます。3,000万人超の顧客基盤・金融アセットと、暗号資産交換業者の顧客基盤・事業知見を組み合わせ、新会社を通じて暗号資産ウォレットを提供する構想は、既存経済圏とオンチェーン金融経済圏を接続するインターフェースを構築する動きと見ることができます。

ただし、プラットフォーマーがウォレットを提供する場合、単にアプリを配布すればよいわけではありません。接続する経済圏、本人確認済みユーザーとの紐づけ、法定通貨との交換動線、暗号資産の取扱範囲、危険なDAppsへの接続制御、AML/CFT、補償方針、提携先との責任分担まで含めた設計が必要です。

個別サービス組込型:自社体験への自然な組み込み

すべての企業がオンチェーン経済圏の「面」を取りに行きたいわけではありません。個別サービスを提供する企業にとってのウォレットは、自社サービスにオンチェーン体験をシームレスに組み込むための機能として位置づけられます。

たとえばゲーム会社であれば、ゲーム内アイテムやキャラクターをNFTとして発行し、外部でも保有・移転できるようにする可能性があります。エンタメ企業であればチケット、会員証、ファンコミュニティをトークンと連携させる選択肢があります。金融機関であれば、トークン化資産、ステーブルコイン決済、オンチェーン証明、法人向けデジタルアセット管理などの接点が考えられます。

この場合、ユーザーに「ウォレットを使っている」と強く意識させる必要はありません。会員証を受け取る、特典を利用する、決済する、証明を提示する——その裏側で、ウォレットが署名と接続を担います。スマートフォンの利用者がOSの存在を強く意識しないのと同じです。

個別サービス企業の論点は、「自社がウォレット事業者になるか」ではなく、「自社サービスのどの体験に、どの程度オンチェーン機能を組み込むか」です。署名鍵管理、対応チェーン、リスク検知、DApps接続、法制度対応をすべて自社開発するのは現実的ではなく、サービスの目的に応じてノンカストディアル、カストディアル、ハイブリッド、MPC、マルチシグ、アカウントアブストラクションなどを組み合わせるアプローチが有効です。

まとめ:重要なのは「ウォレット単体」ではなく「アクセスできる経済圏」

ノンカストディアルウォレットは、ユーザー自身が署名鍵を管理し、ブロックチェーン上の資産や権利を操作するためのウォレットです。暗号資産を単に保管するツールではなく、オンチェーン金融経済圏にアクセスするためのインターフェースとして位置づけられます。

実装技術はすでに成熟しつつあります。したがって企業が本当に検討すべき論点は、「ウォレットを作るかどうか」ではなく、ウォレットを通じてユーザーがアクセスできる経済圏をどう設計するかです。

どのユーザーに、どの資産や権利を持たせるのか。法定通貨、ポイント、暗号資産、ステーブルコイン、NFTをどうつなぐのか。署名行為の意味をどう説明し、危険な接続をどう制御するのか。交換業者・仲介業者・金融機関との役割分担をどう設計するのか。自社がカストディを担うのか、ノンカストディアルに徹するのか、ハイブリッドにするのか。

これらの問いに答えなければ、ウォレットは単なる機能追加にとどまります。逆に、経済圏の設計、UX、リスク管理、制度対応が噛み合えば、ウォレットは既存サービスとオンチェーン金融を接続する実務的な基盤になります。

Gincoは、暗号資産交換業者、金融機関、大企業に対して、業務用暗号資産ウォレット、オンチェーン関連システム、デジタルアセット活用に関する技術基盤・実装支援を提供してきました。ノンカストディアルウォレット、Web3ウォレット、オンチェーン金融経済圏の設計を検討する際には、法制度・技術・事業要件を切り分けながら、実装可能な形に落とし込むことが重要です。自社サービスへのウォレット機能の組み込みを検討されている場合は、Gincoまでご相談ください。

参照ソース一覧

貴社のWeb3ビジネスやブロックチェーン活用、デジタルアセット活用戦略を、専門家チームが成功へと導きます。ウォレット基盤の構築から事業全体の構想まで、あらゆるフェーズでご相談ください。
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坂根 遼
国内メガバンクおよび大手総合コンサルティングファームにて、金融機関を中心に戦略立案から実行支援まで、数多くのプロジェクトに参画。その後、Fintech企業の経営陣として、事業成長と組織基盤の構築を両輪で推進した実績を有する。2024年2月、Gincoに参画し、事業企画室長、事業推進部門長、CRO、副社長を歴任。一貫してビジネスの深化と収益基盤の確立を主導。
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