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金融の仕組みが変わると、事業会社の何が変わるのか|非金融領域におけるオンチェーン金融への期待と効用

公開日
2026-10-23
/
更新日
2026-10-23
株式会社Ginco

暗号資産やブロックチェーンに関するニュースは、近ごろ金融機関の動向ばかりが目立ちます。トークン化された投資信託、銀行間の決済ネットワーク、機関投資家向けの資産カストディ。こうした話題を目にして、「自社には縁遠い」と感じている事業会社の方も多いのではないでしょうか。そう感じるのも無理はありません。ここ1〜2年、実際に大きく動いていたのは金融業界の側だったからです。しかし、金融は私たちの社会や経済を円滑に動かすためのインフラであり、いわば血液です。その根本的な仕組みが抜本的に変わろうとしているのであれば、その変化が金融機関の中だけで完結するはずがありません。事実、この先の展開を見据えて既に次の一手を打ち始めている事業会社が、いくつも登場してきています。では、オンチェーン金融の普及は、非金融の領域にどのような変化をもたらすのでしょうか。

事業会社は、毎日「金融」を使っている

「自社のビジネスは金融とは関係が薄い」という感覚は、多くの場合、金融を「投資」や「大型の資金調達」といった非日常的なイベントと同義に捉えていることに起因しています。年に一度あるかないかの出来事であれば、確かに縁遠く感じるでしょう。

けれども、日々の業務に目を向けると景色は一変します。請求書を発行する。入金を確認する。仕入先に代金を支払う。従業員に給与を振り込む。海外の子会社へ送金する。手元の余剰資金を運用に回す。銀行から運転資金を借り入れる。在庫や設備を担保に差し出す。顧客から代金を受け取り、ポイントを還元する。これらはすべて、既存の金融システムの上で動いています。しかも、毎日あるいは毎月、当たり前のように発生する業務です。

つまり事業会社にとって、金融とは電気や通信ネットワークと同じインフラストラクチャーです。普段は意識すらしないものの、止まれば事業活動そのものが停止してしまいます。そして、そのインフラの処理速度や仕組みが変われば、自社の業務プロセスやビジネスの組み立て方さえも根本から変わる可能性があります。

ただし、金融には他のインフラとは異なる決定的な特徴があります。それは「一斉には切り替わらない」という点です。例えば電力網であれば、送電の仕組みが最新のものに置き換わっても、利用者は意識することなく新しいインフラの恩恵を受けられます。しかし金融システムはそうはいきません。通貨ごとに、国ごとに、そして業務ごとに、それぞれ異なるスピードで新しい仕組みへと置き換わっていきます。つまり当分の間は、古い仕組みと新しい仕組みが並行して稼働することになります。この並走期間が長ければ長いほど、「どちらの仕組みを、どこで使うか」という選択権が利用する側に委ねられます。そしてその判断を下すのは、金融機関ではなく事業会社自身なのです。

最大の便益は「記録の持ち方」が変わることから生まれる

「オンチェーン金融」という言葉は多岐にわたる文脈で使われますが、その技術的な本質をひとことで言えば「お金や資産の記録を、関係者全員が共有する単一の台帳(ブロックチェーン)の上に置くこと」です。

現在の金融システムは、そのような構造にはなっていません。預金の記録は銀行のシステム内に、株式や社債の記録は証券保管振替機構と証券会社に、自社の債権債務の記録は自社の会計システムに、それぞれ分断されて存在しています。各主体が別々の帳簿を持っており、資金や権利を移動させる際には、帳簿の持ち主に依頼を出し、依頼を受けた側が自身の帳簿を書き換え、事後にお互いの記録を突き合わせて齟齬がないかを確認する、という煩雑な手順を踏む必要があります。この「情報の往復」こそが、現在の金融システムの基本動作です。何十年もの間この手法で運用されてきたため、事業会社の業務プロセスも、このタイムラグや往復作業が存在することを前提に構築されています。

しかし、記録を共有台帳に置くことで、この往復プロセスが消滅します。資産の引き渡しと代金の支払いを不可分な一回の取引(アトミック決済)として完了できるため、処理完了までの間に備えて用意していた保証金や担保が不要になります。営業日や営業時間、国をまたぐ際のシステムの継ぎ目で待たされることもなくなります。「金曜日の夕方に依頼した海外送金が月曜日まで着金しない」といった非効率な待ち時間は過去のものになります。当事者がリアルタイムで同一の記録を参照するため、突き合わせ作業の前提そのものがなくなります。「検収が完了したら自動的に支払いを実行する」といった業務上の条件(スマートコントラクト)を、資金移動そのものに組み込むことも可能になります。このあたりのより詳細な技術的背景や整理については、オンチェーン金融の解説記事で詳しく扱っていますので、そちらも併せてご覧ください。

さらに、事業会社の視点から見たとき、見逃せない性質がもうひとつあります。それは、資産や権利を柔軟に分割(小口化)できること、そして「いま誰が保有しているか」が発行体の側から直接把握できるようになることです。従来は取引の最低単位が大きすぎてアプローチできなかった層へも届けることができ、さらに一度届けた後も直接的な関係性を維持できます。これはつまり、「資金調達の手段が、そのままダイレクトな顧客接点(エンゲージメントツール)になり得る」ということを意味します。金融機関にとっては副次的な効果に過ぎないかもしれませんが、事業会社にとっては、ここが最もビジネスに直結するインパクトの大きな変化だと言えます。

金融領域では「決済・発行・保管」の順に実用化が進展

ここまではコンセプトの解説でした。では、現実はどこまで進展しているのでしょうか。金融領域において実装が先行しているのは、大きく分けて三つの分野です。

決済分野の進展

現在最も実用化が進んでいるのが決済領域です。法定通貨と価値を連動させたステーブルコインは、国際的なクレジットカードブランドや送金事業者が相次いで本格的な取り扱いを開始するフェーズに入っています。例えばMastercardは2026年8月、ステーブルコイン決済基盤を提供するBVNKを18億ドルで買収すると発表しました。日本国内においても、銀行預金をトークン化して扱う実証実験に43社が参加しており、銀行間決済のみならず企業間決済の効率化までを視野に入れた検証が急速に進んでいます。また、円建てステーブルコイン「JPYC」の累計発行額は、2026年9月17日時点で100億円を突破しました。

発行分野の進展

次いで進んでいるのが発行領域です。社債や不動産の受益権などをトークン化して発行するセキュリティトークン(デジタル証券)は、2026年3月末時点で国内の公募案件の累計が3,333億円・82本に達しています。特筆すべきは、そのうち2025年度の単年だけで1,650億円を占めており、直近で市場が急拡大していることです。発行体は金融機関に限定されません。不動産会社や一般事業会社が、自社の保有資産や信用力を裏付けとしてデジタル証券を発行する事例が着実に増加しています。

保管(カストディ)分野の進展

三つ目が保管領域です。デジタル資産は、暗号鍵(秘密鍵)を管理する者がコントロール権を持ちます。言い換えれば、鍵の管理そのものが資産管理に直結します。ここ1〜2年で機関投資家向けの堅牢な保管サービス(カストディ)のインフラが整い、伝統的な銀行や信託銀行の参入も本格化しました。一見地味な分野ですが、決済や発行のユースケースが拡大するほど、それを支える不可欠な土台として重要性を増してきます。

この順序には明確な理由があります。決済は日常的に反復回数が多く効果測定が容易である一方、発行は一件あたりの金額規模が大きいため法制度やルールの整備を待つ必要があります。そして保管インフラは、前の二つの需要が立ち上がって初めて必要不可欠になるからです。この発展の順序は、世界中どの国でも概ね共通しています。

非金融の事業者に、どのような可能性が開かれつつあるのか

金融領域で実用化された機能は、そのまま事業会社の日常業務へと降りてきます。前述の三つの分野に対応する形で、現在どこまで現実のビジネスに組み込まれつつあるのかを「四つの業務」に分けて見ていきましょう。

1. 受け取る —— 既存の決済フローを変えずに、選択肢を追加する

店舗やECサイトでの代金受け取りは、すでに本格的な実装段階に入っています。世界的なECプラットフォームであるShopifyは2025年6月、Coinbase(Baseネットワーク)およびStripeと提携し、加盟店がステーブルコイン「USDC」を決済手段として受け取れる機能を34カ国で提供開始しました。この取り組みの秀逸な点は、加盟店側が新たな決済ゲートウェイと複雑な契約を結ぶ必要がない設計になっていることです。既存の決済フローはそのままに、エンドユーザーに対する「支払い方法の選択肢」がシンプルに一つ追加される形です。決済大手のPayPalも2026年に中小事業者向けの暗号資産決済の受け入れを開始しており、顧客がどの通貨で支払っても、加盟店への着金時には自動的に自社ステーブルコインのPYUSDに変換される仕組みを構築しています。

日本国内でも、2026年8月20日にJCBとデジタルガレージが、ローソンのゲートシティ大崎アトリウム店にて実証実験を行いました。これは主にインバウンド(訪日客)の利便性向上を想定したものです。注目すべきは店舗側の設計で、加盟店への売上精算は日本円(法定通貨)で行われるため、店舗側が直接デジタル資産を保有・管理するリスクを負いません。なお、同店舗ではその3日前の8月17日にも、MetaMaskを利用したJPYC・USDC・USDTによる決済検証が実施されています。現時点では1店舗限定の実証であり、全国展開の時期は未定ですが、確かな一歩と言えます。

受け取った後の「使い道」まで踏み込んだ先進的な事例もあります。南米の大手ECサイトであるMercado Libreは、自社が発行するドル連動型ステーブルコインを、有料会員プログラムのポイント還元原資として活用しています。会員は買い物のインセンティブとしてステーブルコインを受け取り、それをサイト内での支払いに充てるか、手数料無料で他の資産に交換するか、あるいは価値保存として持ち続けるかを選択できます。同社は2022年に独自のボラティリティがあるトークンを発行していましたが、2026年4月にこれを廃止し、ステーブルコインへの一本化を行いました。価格変動のあるトークンよりも、法定通貨に連動するステーブルコインのほうが、ポイントの裏付け資産としてユーザーにとっても企業にとっても扱いやすかったという実証結果と言えるでしょう。

2. 払う —— 銀行送金が「遅くて高い」区間から変革が始まる

支払いの領域については、変化の入り口が明確です。国内の銀行振込のように、すでに十分に速く、低コストで回っている領域は、当面は現状のシステムが維持されるでしょう。いま劇的な変化が起きているのは、海外からの売上回収や、海外に居住するフリーランス人材への報酬支払いのように、既存の銀行送金ネットワーク(SWIFTなど)を介すると「遅く、高い手数料がかかる」区間です。

そのためのインフラはすでに整いつつあります。決済プラットフォームのStripeは、法人がステーブルコインで残高を保有し、グローバルに送金できる口座サービスを世界101カ国で展開しています。また、ステーブルコイン発行元のCircleは2026年9月、越境B2B決済に強みを持つシンガポールのTazapayを約4億ドルで買収すると発表しました。これは明らかに、成長著しい新興国向けの送金ルートを戦略的に押さえる動きです。日本国内においても、エンジニア派遣を手がける企業が2026年8月、希望する従業員や業務委託先への報酬をステーブルコインの「JPYC」で支払う新たな人事制度を導入しました。事業規模としてはまだ小規模な事例ではあるものの、実際に給与や報酬の支払いに活用する企業が登場し始めています。

なお、国内の企業間決済そのもの——請求書の発行から検収、支払い承認、入金消込といった一連のワークフローをどうシームレスに繋ぐか——については、銀行が預金をトークン化する取り組みの中で活発な議論が進められています。このテーマについては、トークン化預金の銀行間決済の記事で詳細に解説しています。

3. 集める —— 資金調達が、そのまま「顧客とのエンゲージメント」に変わる

非金融事業者にとって、最も変化のインパクトが分かりやすいのが「資金の集め方(調達)」です。

トヨタファイナンスは2026年8月、セキュリティトークンを活用したデジタル社債「TOYOTA Wallet つむぐボンド」の募集を開始しました。発行総額は10億円、期間1年で、1口10万円から投資可能です。この案件の最大の特徴は、証券会社を通じた委託販売を行わなかった点にあります。投資家は、証券口座を新規に開設することなく、普段使っている「TOYOTA Wallet」アプリから直接申し込みを行います。同社がこの直接販売(自己募集)の形式を採用するのは今回が2回目であり、1回目の2025年3月の発行時は証券会社を経由していました。自己募集へと切り替えた理由について、同社は「申し込みから、社債保有期間中のご案内、そして特典の提供までを、自社で一体的に設計することが可能になるため」と説明しています。事実、この社債の特典には、富士スピードウェイの観戦チケットや、LEXUS・GRブランドの車両、さらにはトヨタの特選旧車の試乗体験といった、熱狂的なファンに向けた特別な体験が用意されています。つまり、資金調達という財務活動が、そのまま顧客とのエンゲージメントを高めるマーケティング施策としてシームレスに統合されているのです。

海外でも同様の動きが加速しています。ドイツの製造業大手シーメンスは2023年2月、証券会社を介さずに投資家へ直接販売するスキームで6,000万ユーロのデジタル社債を発行し話題を呼びました。さらに2024年9月にはその規模を3億ユーロへと拡大し、ドイツ連邦銀行のインフラを活用して即日決済(T+0)まで実現させています。2025年2月には、流通市場でのセカンダリー取引も成立しました。また、インドでは2026年9月、建設・エンジニアリング大手のLarsen & Toubroが規制当局のパイロットプログラムに参加し、5億ルピーのデジタル社債による調達を実施しました。この決済にはインド準備銀行が発行する中央銀行デジタル通貨(CBDC)が使用されています。

4. 預ける・差し入れる —— デジタル記録の完全性が、担保の条件を書き換える

自社の保有資産の活用方法も、新たな技術によってアップデートされつつあります。この領域は、現時点では海外での実証実験が先行しています。

インドのAgriTech企業であるArya.agは、約20億ドル相当の農産物を保管する倉庫ネットワークを運営しており、その在庫農産物を裏付けとした融資の仲介を年間13億ドル規模で手がけています。同社が現在注力しているのが、預かっている穀物の在庫記録、電子倉荷証券、そしてそれに基づく融資のステータスを、ひとつのブロックチェーン台帳に統合することです。融資を行う金融機関が確認したいのは主に三点です。「倉庫に何がどれだけ実在するか」「その在庫が他社への融資の二重担保になっていないか」、そして「借り手の現在の残債務はいくらか」。現在はこれらが別々のシステムに記録されているため、情報突合の手間がかかり、結果として審査期間が長引き、融資姿勢も慎重にならざるを得ません。台帳の統合によってこの課題の解決が期待されていますが、この仕組みはまだ本格稼働には至っておらず、効果についても報じたCoinDeskの記事内で「今後検証していくべき見込みの段階」とされています。

一方、日本国内の状況はどうでしょうか。現物資産を裏付けとするトークン化自体は実例が存在し、三井物産グループが発行する金(ゴールド)価格連動の「ジパングコイン」や、ウイスキーなどの蒸留酒の樽を小口化し、熟成後に現物と交換できる「UniCask」などが稼働しています。しかし、これらのトークンが、企業間取引における担保や金融機関からの与信枠の確保に直接つながっているわけではありません。実際のところ、事業会社の在庫や売掛債権を動的な担保とした融資の高度化にこの技術を活用した事例は、2024年から2026年にかけて国内ではまだ見当たらないのが実情です。

この背景には、法制度の壁が存在します。インドの事例では、電子的な倉荷証券の法的有効性が先行して認められていたため、Arya.agのようなビジネスモデルが成立しました。対して日本の倉荷証券の電子化は、2024年9月に法制審議会で要綱が答申されたものの、2026年9月の現時点において、商法の改正案はまだ国会に提出されていません。しかし見方を変えれば、制度改正までの間に「準備期間」が残されているということです。いざ法制度が整備され市場が動いたとき、自社の資産をいかに早く、有利な条件で活用できるかは、「それまでに自社の資産記録を、どのようなデジタルフォーマットで整備し、管理体制を構築していたか」に左右されます。

まとめ

これら四つの入り口(受け取る・払う・集める・預ける)を俯瞰してみると、ある共通の性質が浮かび上がってきます。それは、事業会社にとってのオンチェーン金融の活用とは、決して「新しい金融商品に投資すること」ではないという点です。現在、自社が日常的に行っている中核業務の土台(インフラ)を最新のものへと入れ替える、という本質的な業務改革のプロセスなのです。したがって、検討の第一歩は「業務の棚卸し」から始まります。自社のバリューチェーンや資金フローの中で、どこに不要な待ち時間が発生しているか。どこで部署間や取引先との情報突合に膨大な工数を割いているか。そのボトルネックとなっている箇所こそが、オンチェーン技術による変革の恩恵を最も享受できる場所です。

そして、どの業務領域から着手したとしても、実践を進める企業は最終的に同じ課題に直面します。「受け取ったデジタル資産や、自社で発行したトークンを、誰が、どのような承認フローと権限設定のもとで安全に管理・運用するのか」というガバナンスの課題です。取り扱う資金額の規模、取引の頻度、そして社内の組織体制によって、求められる内部統制のレベルは大きく異なります。ここには「これを導入すれば解決する」という単一の正解はなく、単にツールや製品を導入するだけでは解決できない複雑な問題です。この重要かつ実務的なテーマについての考え方は、法人にとっての業務用ウォレットの記事にて詳細にまとめています。

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Gincoは、「経済のめぐりを変えていく」をミッションに掲げ、ブロックチェーン技術を活用し、企業のWeb3事業を支援するWeb3 Development Companyです。エンタープライズ向けにより早く、より安全に、より費用対効果が高いブロックチェーン活用を実現するインフラを提供しています。特にウォレットやノードの分野で国内トップの提供実績を誇ります。
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