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デジタルユーロの現在地ーー2027年パイロットとPontes稼働から読み解く欧州決済基盤ネットワークの現状と展望

公開日
2026-11-02
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更新日
2026-11-02
株式会社Ginco

欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は2026年10月17日、国際通貨金融委員会(IMFC)向けの声明で、デジタルユーロの内部パイロットを2027年後半から12カ月間実施すると改めて表明しました。欧州では、日常の支払いに使うデジタルユーロと、金融機関の大口取引を中央銀行マネーで決済するDLT基盤「Pontes」の整備が並行して進んでいます。ECBがここまで5年かけて何を決めてきたのか、アジアや日本の動きとどう違うのかを補助線に、2つの基盤の位置付けと、日本企業が検討に取り入れたい視点を整理します。

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デジタルユーロは、現金を補完する公的なデジタル決済手段

デジタルユーロは、ユーロ圏の人々が日常の支払いに使うことを想定した中央銀行デジタル通貨(CBDC)です。現金と同じく、ECBとユーロ圏各国の中央銀行で構成されるユーロシステムが発行する公的なお金で、銀行預金や民間事業者が発行するステーブルコインとは、発行主体も制度上の位置付けも異なります。ECBは、現金を置き換えるのではなく補完するものだと説明しています。

背景にあるのは、支払いのデジタル化が進むほど、公的なお金を使える場面が減るという問題です。ECBは、公的な決済手段と民間の決済サービスが共存することが、欧州の決済の戦略的自律性を支えると位置付けています。役割分担は二層です。中央銀行が共通の基盤を提供し、銀行などの監督下にある決済サービス事業者が、口座の開設や支払いといった利用者向けのサービスを担います。企業から見れば、新しい支払手段への対応に加えて、顧客接点や既存サービスとの組み合わせで何を提供できるかが論点になります。

もう一つ、デジタルユーロとブロックチェーンを同一視しない点も押さえておきたいところです。ECBは、デジタルユーロを中央集権型の決済プラットフォームで運用し、DLT(分散型台帳技術)は採用しないと明言しています。CBDCという通貨の分類と、取引を処理する技術の選択は別の話です。

ECBの5年——調査、準備、そして内部パイロットへ

デジタルユーロの検討は、段階を踏んで進んできました。ECBは2021年から2023年の調査フェーズで設計方針と技術要件を固め、2023年11月から2025年10月の準備フェーズで、ルールブックの策定、基盤を開発する事業者の選定、技術的な実験を進めました。並行して欧州委員会は2023年6月、デジタルユーロの法的枠組みを定める規則案を提出しています。

2025年10月30日、ECB理事会は準備フェーズの完了を受けて、次の段階へ進むことを決めました。このときECBは、EUの共同立法者が2026年中に規則を採択すれば、2027年半ばからパイロットと初期取引を行い、2029年中の初回発行に備えられる、という日程を示しています。今回の総裁声明とチポローネ理事の講演は、この日程をなぞったものです。

立法の現在地は次のとおりです。EU理事会は2025年12月に、欧州議会は2026年7月にそれぞれの立場を採択し、現在は欧州委員会を交えた三者協議が進んでいます。欧州理事会は2026年内の妥結を求めています。ラガルド総裁が声明で「規則を2026年末までに採択することが鍵になる」と述べたのは、この協議を指しています。

パイロットの中身も具体化しています。2026年3月の公募に50を超える応募があり、7月に銀行とノンバンクを含む36の決済サービス事業者が選ばれました。ECBと19の各国中央銀行の職員が、オンラインとオフラインの個人間送金、店舗とECでの支払いを、試験用のデジタルユーロで行います。試験用版は法案で想定する仕様に近いものの、法定通貨ではありません。9月には、加盟店として参加するECやモバイル決済の事業者の募集も始まりました。

今回、ECBが出した声明も実際のところ、新たな決定という訳ではありません。ECBは2026年7月14日にパイロットへ参加する決済サービス事業者36社を公表し、10月6日にはチポローネ理事が講演で日程を説明しています。ラガルド総裁の声明は、それらを最高位の場で確認したものです。また、2027年に一般向けの発行が始まるわけでもありません。パイロットは、中央銀行の職員と選ばれた加盟店が試験用のデジタルユーロを使う内部の検証で、その実施も、EUの立法が2026年内に終わることを前提にしています。

ここで押さえておきたいのは、パイロットの開始、規則の採択、発行の決定、利用の開始が、それぞれ別の判断だということです。ECB理事会は、規則が採択された後にはじめて、発行するかどうかを決めます。2029年という年も、発行の約束ではなく、発行できる状態になるための目標と位置づけられています。

Pontesはホールセール向けの基盤で、2024年の実験から2年で稼働した

日常の支払いを対象とするデジタルユーロとは別に、ユーロシステムは金融機関向けのホールセール決済基盤も整備しています。ホールセールとは、金融機関などによる大口の資金・証券取引を指します。こちらはデジタルユーロと違い、DLTを前提にした取り組みです。

出発点は2024年5月から11月の探索的作業です。中央銀行、金融機関、DLT基盤の運営者など64の参加者が、ユーロシステムの用意した3つの接続方式を使って、50を超える試行と実験を行いました。実際の中央銀行マネーで決済する試行も含まれます。この結果を受けてECB理事会は2025年7月、短期の「Pontes」と長期の「Appia」という二本柱の戦略を決め、Pontesのパイロットを2026年第3四半期末までに始めるとしました。

Pontesは予定どおり、2026年9月21日に稼働しました。市場のDLT基盤と、ユーロシステムの既存の決済基盤であるTARGETサービスをつなぎ、トークン化資産の取引を中央銀行マネーで決済する仕組みです。資産の受け渡しと代金の支払いを同時に成立させる機能も備えます。稼働時点で13の金融機関と4つのDLT基盤運営者が接続を終えており、機能と稼働時間は、2028年の全面実装に向けて段階的に広げる計画です。

資産をトークン化しても、売買代金の受け渡しや、取引結果を既存の業務や帳簿に反映する工程はなくなりません。資産側だけをデジタル化しても、決済との接続が整わなければ取引は完結しない。Pontesは、この課題に中央銀行の側から応える仕組みです。

長期の柱であるAppiaは、共通の標準と欧州のガバナンスを備えたDLTネットワークの青写真を2028年までに示す取り組みで、2026年3月にロードマップが公表されました。複数の市場やシステムをつなぐ標準、参加条件、運用責任がどう決まるかは、欧州で事業を行う企業にとって、将来の接続性を左右します。ただし現時点では、青写真を作る段階にあります。

アジアと日本では、民間発行のデジタルマネーが先に動いている

欧州がデジタルユーロという公的な通貨を軸に進めているのに対し、アジアでは、民間が発行するステーブルコインやトークン化預金の制度と実証が先行しています。シンガポール金融管理局(MAS)は2025年10月、トークン化預金と規制下のステーブルコインを決済に使うための官民連携「BLOOM」を立ち上げ、2026年10月にはマレーシアとタイの中央銀行が加わりました。香港では2025年8月にステーブルコイン条例が施行され、法定通貨に価値を連動させるステーブルコインの発行が免許制になっています。

日本も同じ流れにあります。2023年6月の改正資金決済法で、ステーブルコインは「電子決済手段」として発行と流通の枠組みを得ました。2026年10月16日には、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行が、信託型の円建てステーブルコインを共同発行し、三菱商事の国内外の拠点間のクロスボーダー決済を想定した実証の結果を公表しています。ホールセールでは、日本銀行がBISのProject Agoráに参加し、トークン化した中央銀行預金と商業銀行預金を同じ基盤で扱う実資金のテストが、2026年7月に行われました。

一方、日本銀行による一般利用型CBDCの検討は、欧州より慎重なペースです。日銀は2023年4月にパイロット実験を始め、実験用システムの構築・検証と、民間事業者と議論する「CBDCフォーラム」を並行して進めています。ただし開始時から、店舗や消費者が関わる実取引は行わないとしており、職員と加盟店が実際に支払う欧州のパイロットとは、検証の範囲が異なります。

内容面では参考になる点が多くあります。2025年5月の進捗報告では、中央システムからスマートフォンのアプリまでを含む実験用システムの構築完了が報告されました。利用者情報や取引情報を扱う顧客管理と、決済に必要な情報だけを扱う台帳管理を分けた設計は、プライバシーに配慮したデータ管理の例として、企業にも応用できます。2026年6月の報告では、高負荷時の処理性能、相互運用性、セキュリティ、可用性の検討結果が示され、今後はエラー対応を組み込んだ性能評価と、送金処理フローの効率化を検討するとしています。日本でCBDCを発行するかどうかは決まっておらず、実験の設計も社会実装時の仕様を確定するものではありません。

整理すると、欧州は公的なデジタル通貨を軸に、法律から基盤まで一体で進めています。アジアと日本は、民間発行のデジタルマネーの制度と実証を先に進め、中央銀行の通貨はホールセールの実験や慎重な技術検証にとどめています。どちらの地域にも共通するのは、通貨や資産の発行そのものより、既存の決済基盤や業務との接続が課題になっている点です。

日本企業が整理したい、3つの実務上の論点

こうした動きを自社の検討に引き寄せるとき、まず決めたいのは検討対象です。消費者向けの決済サービスを扱うのか、トークン化資産の発行や流通に関わるのかで、参照すべき制度も接続先も変わります。デジタルユーロ、Pontes、Appiaを一つの導入計画として扱わず、自社のユースケースにどれが関係するかを切り分けることが出発点です。

次に、既存業務との接続です。欧州の顧客に商品やサービスを提供する企業であれば、支払手段の選択から入金照合、返金、問い合わせ対応までを一連の業務として洗い出せます。新しい決済手段の画面を足すだけでなく、取引履歴や会計処理との整合をどう保つかまでが検討範囲です。制度はまだ固まっていませんが、業務への影響を先に把握しておけば、仕様が決まった時点で動けます。

金融機関やデジタルアセット事業者は、資産を記録する基盤と、資金を決済する基盤を分けて把握しておくと見通しがよくなります。取引のどの時点で資産と資金の受け渡しが確定するのか、処理が途中で止まったときにどう復旧するのかを、システム構成と業務手順の両面で決めておく必要があります。Pontesのように既存インフラと接続する型の基盤は、この設計の参考になります。トークン化資産を扱うなら、秘密鍵の管理、取引権限、承認フロー、監査記録も、規模が大きくなってから足すのではなく、企画と要件定義の段階で業務と一緒に設計しておきたい論点です。

当社は、制度や標準の具体化を追いながら、変更に対応できるシステム構成と運用体制を先に整えておくことが、企業の選択肢を広げると考えています。発行時期を前提に急ぐより、自社が提供する価値と、その実現に必要な業務・技術要件を明確にするほうが、結果として早く動けます。

まとめ——発行の時期ではなく、接続の設計を読む

欧州では、デジタルユーロの内部パイロットに向けた準備と、トークン化資産を支えるホールセール決済基盤の整備が、別の線路で並行して進んでいます。2027年後半のパイロット、2026年内の立法、2029年の発行準備は、それぞれ条件も意味も異なります。アジアと日本では民間発行のデジタルマネーが先行し、日銀のCBDC検討は、発行判断と切り離された技術検証の段階にあります。

日本企業にとって注目すべきは、通貨の発行そのものよりも、民間サービスが接続する共通基盤と運用設計の議論が進んでいる点です。自社の顧客や業務にどの接点が生まれるかを見定めることが、事業機会を具体化する第一歩になります。

Gincoは、業務用ウォレットやオンチェーン関連システムの提供を通じて、企画・要件定義から開発・運用までの取り組みを支援しています。皆さんのデジタルアセット活用やオンチェーン金融事業実現を専門家チームが支えます。事業全体の構想からシステム要件定義、開発、保守運用まで、あらゆるフェーズからプロジェクトに伴走しますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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参照ソース

本記事は2026年10月30日時点の公表情報に基づきます。今後の立法、設計、実施判断によって計画が変更される可能性があります。

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Gincoは、「経済のめぐりを変えていく」をミッションに掲げ、ブロックチェーン技術を活用し、企業のWeb3事業を支援するWeb3 Development Companyです。エンタープライズ向けにより早く、より安全に、より費用対効果が高いブロックチェーン活用を実現するインフラを提供しています。特にウォレットやノードの分野で国内トップの提供実績を誇ります。
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